ホウセンカ
アンスリウムが咲く頃
 水曜日。3回目のデートの日。結局踏み出す勇気が持てないまま、この日が来てしまった。

 桔平くんに会いたい。でも会いたくない。
 すごく複雑な気持ちのまま過ごしていたら、最悪なことに生理と重なっちゃって。しかも、いつもより生理痛がかなりひどい。なんとか学校には行ったけれど、お腹は痛いし貧血で頭はクラクラするし、体調は最悪だった。

 桔平くんは恵比寿に用事があるらしくて、そこから学校の最寄り駅の広尾に来てくれることになっている。そして日曜日に話していた、桔平くん行きつけの喫茶店でカレーを食べる予定。

 今日のデートを断れば、結論を先延ばしにできる。でも桔平くんの顔を見たい、声が聞きたいという気持ちも大きくて。どうしたらいいのか分からないまま、駅に着いてしまった。

「どうした?」

 地下鉄の改札前で待っていた桔平くんは、私の顔を見て、開口一番そう言った。

「顔、真っ青」
「え、そう?」
「体調悪いんだろ。病院行った方がいいんじゃねぇか?」

 そんなに具合が悪そうに見えるのかな。メイクで誤魔化したんだけど……。
 
「大丈夫だよ。風邪とか、そういうのじゃないから」

 私の言い方で桔平くんはピンときたみたいで、あぁ、と小さく呟いた。やっぱりお姉さんがいるから、こういうのは分かるのかな。

「どっちにしろ、体調悪いのに無理させらんねぇよ。送るから、帰ろう」
「でも桔平くん、忙しいのに時間作ってくれてるでしょ。鎮痛剤は飲んだから……」
「時間なんて、この先もいつでも作るって。来てくれたのは嬉しいけど、愛茉が楽しくないと意味ねぇだろ。ほら、帰るぞ」

 ああ、ダメだ。今そんなこと言われたら泣いちゃいそう。唇を噛み締めて下を向きながら、私はなんとか頷いた。

 タクシーに乗るかって言われたけれど、ここから家まではかなり距離がある。料金がとんでもないことになりそうだし、一応まだ動けるから、さすがにそれは断った。

 でも新宿に着いて乗り換える時に、いよいよ具合の悪さがピークになってきたみたいで。電車を降りてエスカレーターに乗ったら、危うく倒れそうになった。

 結局桔平くんに支えられながら改札を出て、タクシーに乗ることに。最初から無理しなければ、迷惑をかけることもなかったんだよね。申し訳なくて泣きそうになる。
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