ホウセンカ
「寄りかかっときな」

 頷いて、窓側にもたれる。
 
「違う、こっち」

 そう言って桔平くんは私の肩を抱いて、自分の方に引き寄せた。

 そっか。これはデートじゃないから、触ってもいいってことなのかな。ああもう、そんなことどうでもいいや。

 大人しく桔平くんに寄りかかると、頭を撫でてくれた。大きくて温かくて優しくて、すごく心地良い手。

 胸の奥に、じわりと熱が広がる。全身を優しく包まれているような、大きな安心感。私はやっぱり、桔平くんに触れてほしかったんだな。そんなことを考えていたら、次第に意識が遠のいていった。

「愛茉、着いたよ」

 桔平くんの声が遠くから聞こえる。返事をしたつもりだけど、ちゃんと声が出たかは分からない。その後、ふわりと宙に浮いた感覚があって目を開けると、桔平くんの顔がすぐ近くにあった。

「大丈夫?オレ両手が塞がってるから、自分で鍵開けてくんねぇ?」

 え、え、ちょっと待って。これって俗にいう“お姫様抱っこ”っていうやつでは?うそうそ、顔近すぎ。声がすぐ耳元で聞こえる。

 ていうか重いでしょ、絶対。桔平くん、そんなに腕力あったの?

「重くねぇから。すげぇ軽いよ。でも早く鍵開けて」

 また心を読まれてしまった。どうして私の考えていることが分かるんだろう。
 
「こ、ここで大丈夫だから、下ろして」
「どう考えても歩ける状態じゃねぇだろ。別に部屋が散らかっていようがゴミ屋敷だろうが、気にしねぇって」

 そうじゃなくて、この体勢がめちゃくちゃ恥ずかしいんだもん。密着してるし、桔平くんの顔が近すぎるし。

 でもここでずっと押し問答するわけにいかないし、とりあえずオートロックの鍵を開けた。
 大丈夫っていう私の言葉を無視して、桔平くんはそのまま部屋へ向かう。

「なんだ、綺麗に片付いてんじゃん」

 結局、抱き抱えられたままベッドまで運ばれてしまった。私、洗濯物そのままにしてなかったよね?下着とか、ぶら下げてないよね?

「オレ、帰った方がいい?」

 私を寝かせた後、ベッドの横に座りながら桔平くんが言った。その表情から、本当に心配してくれているのが伝わってくる。

 なんかもう、頭がまったく回らない。ひとりになるのは心細い。傍にいてほしい。
< 45 / 408 >

この作品をシェア

pagetop