愛を教えて、キミ色に染めて【完】
(そうだ、あの時円香は確か、相手は【江南家】だと話してた……クソっ、どうして俺はそんな大事な事を忘れてたんだよ?)

 自ら別れを選び、彼女を突き放した伊織だったが、こうなってくると話は変わってくる。

「伊織、江南家と雪城家は、榊原とも深い関わりがある。その二件についてはお前に情報収集を頼みたい」

 基本、情報収集は雷斗の役割なのだが、彼は伊織に話す前に忠臣に相談をしていて、この件は伊織に任せるようにと言われていた。

「……ああ、俺もそのつもりだ。これまでの資料、全て渡してくれ」
「分かった。すぐに伊織のスマホにデータ飛ばすよ」

 こうして伊織は再び円香に関わる事になるのだが、状況は既に悪化の一途を辿っていた。

 式の日取りが決まってもなお、円香は颯からの指示で様々な事を強要されていた。

 自宅から家や会社に関するありとあらゆる資料やデータを持ってこいと言われれば、誰にも見付からないよう父親の部屋に忍び込んでは、泥棒のような真似事をさせられていた。

「おい、本当にこんなくだらねぇ情報しかねぇのかよ? 」
「私には、それが精一杯です。見付かれば、いくら家族と言えどただでは済みませんもの」
「だから、部外者より怪しまれないで家を歩き回れるお前に頼んでんだろうが! もっと役に立てよな。それともわざとか? 江南家に情報を流したくないから、こんなどうでもいいデータや資料しか持って来ねぇのか? 俺らが欲しいのは、機密事項の書類とか、もっと裏に関するヤバい資料やデータなんだよ」
「そんなの、私には分かりません……お願いだから、もう、許して……」

 円香は辛かった。日々颯に言われて泥棒紛いの事をさせられたり、颯の機嫌を窺いながら怯える毎日を過ごす事が。
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