愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 開始から二時間、飲み放題も終わりそろそろ店を出ようと言う話が飛び交う中、円香の様子が少しおかしい。

(うう、何か、気持ち悪い……)

 途中から急激な体調不良に見舞われた円香は真っ青な顔をしながら一人トイレに行く為席を立つ。

 吐き気があるものの吐く程でもなく、何だかスッキリしない円香は少しだけトイレに留まった後に皆が待つ個室へ戻って行く。

「円香ちゃん、大丈夫?」
「もしかして、間違って誰かのお酒飲んじゃったんじゃない?」

 戻るや否や皆から心配される円香は一人の言葉に思い当たる節があった。

「そう、かもしれません……何だか、気持ちが悪くて、頭もフワフワしてて……」
「あー、やっぱり。多分円香ちゃんが飲んだのは私が頼んだカクテルだ。頼んだはずだけど来てないなって思ってたんだよね。勘違いかと思って別の頼んじゃったけど」

 そう、円香は席替えで真ん中の席になった際、側に置いてあったグラスを取り間違えて、ジュースを飲んだはずがカクテルを飲んでしまっていたのだ。

「この後二次会行こうって話してるんだけど、円香ちゃんは無理かな?」
「すみません、帰ります」
「大丈夫? 一人で帰れそう?」
「大丈夫です、迎えを呼びますから」

 皆がこの後二次会に行くというのを少しだけ羨ましく思う円香は参加メンバーの女の子に支えられ、ふらつきながら外へ出て行った。

(う……何だかさっきよりも、気持ち悪い……)

 外へ出て夜風に当たっていた円香の顔色は少しだけ良くなったものの、表情に反して吐き気は悪化していた。

 男性の一人が纏めて会計をしてくれているので皆がそれを待つ間円香も迎えを呼ばずに待っていたのだけど、顔色はどんどん悪くなっていく。

「……顔色悪いけど、平気?」

 そんな円香を見兼ねた伊織が声を掛けると、

「あ……伏見さん……」

 苦しそうな表情をした円香が伊織の方へ顔を向ける。

「迎え、すぐ来るの?」
「は、はい、呼べば、すぐ来てくれると思います……」
「そう、それなら良いけど」

 他の皆は二次会の場所決めで円香を心配する者はなく、伊織だけが気にかけてくれている。

 そんな状況に感謝の言葉を述べようとした円香だったけれど、

(あ、もう、無理そう……どうしよう……)

 我慢出来ないくらいの吐き気と急激な眠気に襲われてその場でふらつき、咄嗟にそれを支えた伊織に寄りかかった瞬間――

「うっ……」
「おい、嘘だろ!?」

 我慢しきれなくなった円香は伊織に寄りかかった状態で吐いてしまっただけでなく、そのまま眠ってしまったのだった。
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