愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「伊織さん……本当に?」
「ああ」
「でも、私……綺麗じゃ……」
「それ以上言うな」
「だけど……」
「もう、黙れよ――」
「――っんん」

 どうしても納得がいかない円香は言葉を続けようとしたのだけど、それ以上言わせたくなかった伊織は強引に彼女の唇を塞ぎ、

「……ん、はぁ……っ、い、おり……さ、っ」

 荒々しい口付けで少しずつ円香の力を奪っていく。

 強引だけど、決して無理矢理という訳ではなく、その中にも優しさのある情熱的なキス。

 まだどこか遠慮がちで、少しだけ彼女の身体が拒んでいる様に思えた伊織は、自身の舌で円香の舌を絡め取って口内を懐柔していく。

 そんな伊織の優しさが嬉しかったのか、止まりかけていた涙が円香の瞳から再び溢れ出した。

「……嫌だったか?」
「ち、違う……そうじゃ、ない……。う、嬉しくて……好きな人に触れられるのも、キスされるのも、本当に嬉しくて……幸せで、涙が……出てきただけ……」

 彼女のその言葉に、伊織は胸を打たれた。

「円香、嫌な事はもう、忘れちまえよ」
「……そうしたいけど、出来ない……っ」

 伊織だって、そのくらい解っている。

 心と身体に負った傷をすぐには癒せない事も、忘れられない事も。

 それでも、伊織には自信があった。

 自分ならば、円香の心を癒してやれると。

「大丈夫、出来るさ。俺だけを見て、俺だけを感じればいい」
「……伊織、さん……」
「俺が嫌な事全てを忘れさせてやるから、もう、余計な事は考えるな」
「……伊織さ――」

 未だ颯に囚われ、無理矢理犯された事を気に病み続ける円香の心を少しでも良いから軽くしたかった伊織は、飾る事無く思う事を彼女に伝えると、これ以上に何も言わせないよう再び唇を塞ぎ、流れ続ける涙を指で(すく)う。

 そんな伊織の行動に円香の心は少しだけ変化していくのを感じていた。

(伊織さん……私、貴方を好きになって、本当に良かった……)

 そう心の中で彼への感謝を想い、伊織に全てを委ね、身を任せていく。

 啄むようなキスから徐々に互いを求め合う情熱的なキスへと変わり、伊織の手は円香の胸元へと移っていった。
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