隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
「……うるっさいな」


 優成は、わたしの口元を右手で鷲掴みするようにして塞いだ。


「んっ、」


 こちらを見下ろす優成の目は、


「殺されたいの?」


 本当に人を殺したことがある人の、ホンモノの目だと思った。


 そこで電車の扉が開いた。
 優成はわたしからパッと手を離すと、何も言わずに立ちあがって降りて行ってしまう。

 扉が閉まり、取り残されたわたしは、脱力して震える息を吐いた。

 優成にあてられた〝ホンモノ〟に、鳥肌はまだおさまらなくて、体は寒くないはずなのに震えている。

 ……やっぱり優成は、普通じゃない。

 頭でわかっていながら、まだ優成のことを知りたいという気持ちが冷めることはなかった。


 『愛ほどいらないものないよ』


 まりか先輩の純粋な恋心も、ここまでされて揺るがないわたしの気持ちも……優成にとってはくだらなくて、いらないものなんだ。


「……っ」


 無意識に、静かに、涙が頬を伝っていた。

 わからない。 優成がなにを抱えてるのか、なにを考えてるのか。

 ただひとつわかったのは、わたしが今感じてるこの暖かくて切なくて尊い気持ちも全部、優成にとってはいらないものなんだってこと。

 そう思ったら悲しくて、悲しくて。

 優成がすごく遠くに感じた。




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