隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。

毒を盛る / side 酒々井優成


 あぁ、イライラする。



『愛を持って好きになるって 簡単にできることじゃないよ』


 ……そんなこと、言われなくても知ってる。



 ついさっき鷲掴みにしたひまりの顔の感触、俺を見て怯える目を思い出す。

 きっともう俺たちは、元には戻れないだろう。


 改札を出て、乗り換えるため人波にのって歩きながら、せりあがってくる苛立ちを人ゴミを追い抜いていくことでなんとか抑え込む。

 いつもだったら気にならないおっさんの鼻息とかケバいOLのキツい香水、ちらつき始める夏前の霧雨。 全てが俺の神経を逆撫でしてくる。

 途中、視線を感じて目を向けると、遠巻きにキャーキャーとはしゃぐ派手めの女子高生がいた。

 その長い髪を巻いた茶髪が自意識過剰なあの先輩とそっくりで、またさらにイラッとする。


 そう、今日どうしても会いたいとバイト中の俺をわざわざ呼び出して自信満々に告白してきた自意識過剰なあの先輩。

 俺が速攻で断ると、同情を誘おうとでも思ったのか、俺の元に来るまでのことを慌てて言ってきた。

 俺に告白するため彼氏を振ったらサッカーボールを投げられて怪我をしたとか、一年の女子マネが自分と俺がお似合いだと言ってくれたとか。

 十中八九、嘘だと思った。

 でもまさかボールにぶつかってケガしたのがひまりの方で、そのひまりに『もっと本気で考えてあげてよ』なんて説教されるとは……。

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