義弟に婚約者を奪われ、悪女として断罪されましたがなぜか邪神に溺愛されハッピーエンド?を迎えることになりました🐍

13.メッキの下

side .リリー

私がフィオナと初めて会ったのは五歳の時だった。その時から彼女は注目の的だった。
金色の髪に紫の瞳。
平凡な髪色をした私とは雲泥の差だった。彼女に会うまでは私がみんなに「かわいい」って言われていた。
「将来は絶対に美人になる」って。
同い年の男の子だって、いつも私の周りにいた。私の気を引こうと必死な姿は滑稽ですらあった。
かわいい私に嫉妬した女の子たちが私をハブろうがどうでも良かった。あんな底辺な女たちとの付き合いなんてこっちから願い下げだ。
私は子爵家の令嬢だから集まりはいつも同じ下級貴族の人たちとだった。でも、その中で一番かわいい私は女王様のような立ち位置だった。あの女、フィオナが来るまでは。
私の周囲にいた男の子たちはあっという間に私から離れた。
自分に群がってくる蠅にフィオナはビクつき、オドオドしていた。自信なさげなその姿が庇護欲をそそるのだろう。余計、男の子たちはフィオナに夢中となった。同じ女の私から見たら、あざとすぎて白けるけどね。
ぶりっ子丸出しじゃない。それなのに、私のことは受け入れなかった女の子たちはフィオナを受け入れた。私は受け入れなかったのに。
そりゃあ、底辺女と同レベルに扱われるのは嫌だけど、でも底辺女のくせに私を受け入れないとかもっとあり得ないって思っていた。
気に入らない。何もかも気に入らない。
だから私はフィオナに近づいた。フィオナの一番の友達になることにした。
「フィオナって言うの。可愛いね」
私がそう言って近づくとちょっとだけ頬を染めて、嬉しそうに「ありがとう」と言った。それは囁き声に近かった。
キモっ。
それ、計算でしょう。周りもあんなのに騙されちゃってバッカみたい。どうせすぐに化けの皮が剥がれるわよ。メッキが剥がれるみたいにね。そしたら、その下なんて、見られないくらい醜いんだから。そうに決まってる。
「私はリリー。リリーって呼んでね」
「リリー、よろしく」
誰がよろしくするかってぇの。
だいたい、あんたがモテてるのは金髪だからでしょう。明るい色を持っている人は平凡な色を持っている人よりも美人に見えがちよね。あれ?ということは、本当は私の方が美人ってことじゃない?
だって金髪だからモテてるフィオナ。大して私は平凡な茶髪でもモテるんだから。なぁんだ。フィオナって大したことないのね。じゃあ、私の引き立て役にしてあげよう。
これぐらいの容姿なら私の隣に立っても遜色ないし。私の友達に相応しいわよね。
それから私は積極的にフィオナへ近づいた。もちろん、私とフィオナに相応しくない不細工は近づかせなかった。フィオナって価値観が分かっていないのよね。容姿、家柄。自分の側に置くのに相応しいかどうかを考える頭がないっていうか。仕方はないからお友達は私が選別してあげた。
本当、馬鹿なんだから。
「ねぇねぇ、フィオナ。このドレス、可愛いでしょう」
「うん、とても可愛い」
「これね、新作なんだ。お父様とお母様にお願いして買って貰ったんだ」
「・・・・・そうなんだ」
「フィオナはドレス、買って貰わないの?」
「えっ」
「だって、見たことあるドレスばっかじゃん。今は良いけど、もっと成長して、王都のパーティとかにお呼ばれしたら笑いものにされるよ。ドレスの着回しって本来はあり得ないことだからね」
「・・・・・そう、なんだ」
ちょっとだけ悲しげに目を伏せるフィオナにイラッとした。
フィオナのことは知ってる。父親が愛人の家に入り浸っていて、母親はそのせいで心を病んでる。貴族なら誰でも知っている。だから、みんなフィオナのことを可哀想だって言うし、思ってる。だから、フィオナがつけ上がるんだよ。
きっと今も、ドレス一つ買ってもらえない可哀想な自分に酔ってるんでしょう。ただ、おねだりの仕方が下手なだけじゃない。それを可哀想とか馬鹿げてる。
でもね、ちょっとだけ優越。だって、私よりも可愛いって思われている子が、私よりもみすぼらしいドレスを着てるんだもん。でもこのドレスの差が本来は私とフィオナの差なのよね。
そう考えるとフィオナの着古したドレスも悪くないわね。フィオナがちゃんと、自分の立場を自覚できるもの。
あなたは私の友達。だから私よりも目立っちゃダメなの。
「そうだよ、フィオナ。だからお母様かお父様に言って買ってもらいなね。無理なら私のをあげるよ」
「えっ」
「着なくなったドレスがいっぱいあるから」
「ありがとう」
は?何嬉しそうにしてるの?
馬鹿だ馬鹿だと思っていたけどここまで馬鹿だったなんてね。
他の令嬢のお下がりを貰って着るのって高位貴族から下位貴族の下げ渡しなら自慢にもなるけど、今回の場合はあんたが私の下って意味になるからね。つまり、あんたは私に見下されてるの。
「いいんだよ。だって、私たち友達じゃん」
はっ。マジで最高。私のお古を着たあんたがパーティに出る時は私も絶対に出席しなくちゃ。だって、せっかくの見世物でしょう。
そう、あんたは私の下じゃなくちゃいけないのよ。
なのに・・・・・。
「は?アラン・モンド伯爵令息と婚約?」
「うん」
ふざけるな。なんであんたが。あんたは私の下いなくちゃダメでしょう。
「えっと、じゃあ、伯爵令息が子爵家に婿入りするの?」
「ううん。家はランが継ぐことになるから私は嫁入りすることになる」
つまり、フィオナが伯爵夫人になるってこと?そんなの許されるわけない。
何よ、それ。ムカつく。
母親を亡くした?良かったじゃない。心を病んでたんでしょう。お荷物が消えたってことよね。噂じゃあ、フィオナにも手をあげることがあるってことだったし。まぁ、大したことじゃないんだろうけど。どうせ噂が誇張されただけだ。それでも、そんな母親が死んでラッキーじゃん。
フィオナって運だけは良かったんだね。
元愛人と妾子が正式な家族として子爵家に迎え入れられた?
良かったじゃん。物語とかだとそいつらに虐げられ描写があるけど、違うんでしょう。優しい二人で、そんな二人に家族として愛されて幸せじゃん。
父親から蔑ろにされてる?良かったじゃん。そのおかげであんたは伯爵夫人になれるんだから。
良かったづくしじゃん。なんで?それ自分が不幸だって思えるの?
あんたの心が狭いから継母と義弟を受け入れられないだけ。全部、あんたのせいじゃん。

ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、
ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく

あ゛あ゛あ゛っー本当にムカつく。
何なのよっ!何であいつは不幸にならないのよっ!何で私より上に行くのよっ!
あり得ないっ!マジであり得ない。

むしゃくしゃしている私は気づかなかった。そんな私を嬉しそうに目を細めた1匹の黒い蛇が見ていたことに。



ーーーーーああ、良い。醜くて、浅ましくて、ピッタリな道具だ。



そう蛇がほくそ笑んでいたことに私は気づかなかった。
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