【短編】綿菓子味のキス


 もう七時だというのに、日はまだ落ちず明るい。



 待ち合わせに遅れることなく現れた桜井は、シンプルな浴衣を着てきた。


 紺色というよりほとんど黒に近い、かなり渋い感じのその浴衣は、背の高い桜井にとても似合ってて、正直かなりカッコイイ。


「愛子、ゆかたすごい似合うね」


 わたしを見るなり桜井はそう云った。


「髪型も、いつもと全然違う。なんか色っぽいな。どんななってんの?」


 桜井はわたしの返事も待たずに後ろで結ったわたしの髪とか紫色の髪飾りとかうなじとかに触れてくる。


 くすぐったいじゃんとか云って手を振りはずしたけど、実は結構ドキドキしていた。


 値段高かったけど、可愛いゆかた買って良かった。

 白地に、赤と紫色の金魚が泳いでる柄。

 ゆかたを着ると、女度が上がる気がする。

 歩き方も姿勢も自然と気をつけるからきれいになるし。


 それになにより、桜井が喜んでくれたのが嬉しい。


 ペディキュアも、すごく丁寧に、慎重に、心を込めて塗ってきた。


 ゆかたの帯も巾着も、下駄の鼻緒も、まっかな赤。

 鼻緒のせいか、いつもよりわたしの足はきれいに見える気がする。


 うん。実際にきれいだ。うん。



「はい、プレゼント」


 桜井がそう云ってわたしにくれたのはピンクのうちわと、……キツネのお面?


「それかぶったら、可愛いから」


 桜井がわたしの後ろ頭にキツネの顔が来るようにしてお面をセットした。


 ほんとにかわいいのかな?


「うん、似合う」


 桜井は嬉しそうにそう云って楽しそうな笑顔を見せた。



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