【短編】綿菓子味のキス


 日が暮れてきた。


 提灯の灯りが存在感を増してくる。


 わたしと桜井は丘の方まで歩くことにした。



「明日さ」


 桜井が腰帯に挿してた扇子を広げながら云った。


「海に行かない?」


 桜井の声は、低くて渋くていい声だ。


 女って、男の人が思っている以上に“声”を重要な要素だと思っていると思う。

 声が高くてかっこわるい男は、顔がかっこよくても付き合わないかもしれない。


 んで、そのカッコイイ桜井の声で海に誘われてしまったわたしは、嬉しいという気持ちが60%、しまった、もっと本腰入れてダイエットしてれば良かったという気持ちが40%だったので、即答できずに言葉が濁った。


「それじゃ、明日晴れるなら、行く」とわたしは答えた。


「明日の天気予報、聞いてなかったな」


 桜井がつぶやく。


 わたしは、わたしを見る桜井ににこっと笑顔を返して、右脚を後ろに跳ね上げた。



「あ〜した天気にな〜れ!」



 下駄が飛ぶ。


 ひっくり返ったら雨。


 きちんとオモテになったら、晴れだ。



 下駄は期待どおり見事に、オモテをむいて止まった。


「明日も晴れだね!」


 わたしはそう云って、ケンケンで下駄の所まで移動した。




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