【短編】綿菓子味のキス
丘の上についた。
小高い丘から見下ろすと、提灯の連なった灯りは幻想的で、ホント、この世界のどんな風景よりもきれいな眺めだと思った。
「ねぇ、桜井」
「ん?」
「わたし、お祭の提灯があんな風に並んでいるの、すごく好きなんだ」
「うん……たしかに、すごくきれいだよね」
「でしょ?」
日が落ちてきて、辺りのだんだん夕焼けの色に染まっていく。
「……でもね、……」
「……なに?」
「…………桜井のことも、好きだよ」
わたしは、意外とさらりと自分の気持ちを口にした。
桜井の方を見る。
ちょっと驚いたような表情をしている。
「……なんてね」
わたしは急に恥ずかしくなって、あわてて云った。
「金魚すくいの金魚みたいに、わたしも桜井に捕まっちゃったみたいだね」
「そうなの?」
桜井がそうつぶやく。わたしは急に不安な気持ちに襲われる。
「……わたしのことも、キャッチ&リリースする?」
そんな言葉が口から出ていた。
「金魚すくいと釣りはまた違うからなぁ」
桜井の返事は意味がよくわからない。
「釣りは、食べるためにするんだよ」
桜井はそう云うと、わたしの肩に手を回して、優しくわたしを自分の方に振り向かせる。
え?
胸の鼓動が速くなる。
「キャッチ&イート、かな?」
え? えっ……?
そして、ゆっくりとわたしの唇にキスをした。
桜井の唇はやわらかくて、……綿菓子の、甘い味がした。
「愛子、来年もまた来ような、夏祭り」
桜井がそう云って扇子で顔をあおいだ。
桜井は、すごく赤面していたようだった。
わたしも結構顔が赤くなっている気がしたので、ピンクのうちわで顔をあおいだ。
遠くで太鼓の音がきこえている。
そしてそれ以上にわたしの心臓のドキドキがきこえている。
わたしは、お祭りの風景同様、今わたしのとなりに立っている桜井のことがとっても好きなんだと、改めて気づいた。
