神さまよりもずっと

12.ずっと近づきたくて

 小鳥遊(たかなし)部長は、くすっと苦笑いしながら。
「はじめは、ちょっと申し訳ないと思ってたんだ。舞台未経験のあさみんを、一方的に演劇部に引っぱりこんだこと。だけど、あさみん、いっつも演劇部のためにがんばってくれてんだもん。うれしかったよ。一生けん命あさみんが舞台に打ちこんでるの見るの。なんかこっちまでやる気もらえたし」
「部長……」
 わたしのこと、そんなふうに思ってくれてたんだ。

「おはようございます! 今日も朝練、がんばりましょう」
 舞台でよく声を出すためには、体力も必要。
 だから、苦手な校庭でのジョギング朝練にも欠かさず参加した。
「えっと、こんな感じかな?」
 セリフを話すときの動作を鏡にうつして、いろいろ確認したり。
「『ぼくおおねえさんのところへ行くんだよう!』 ちがうな、もっと声を張らないほうがちっちゃい子に見えるかな? でも、あんまり静かな感じだと後ろのお客さんのほうまで届かないかもしれないし――」
 セリフをひとつ言うだけでも、いろいろパターンを考えてみた。

 あの日、はじめて演劇部に見学に行ったときに感じた小鳥遊(たかなし)部長のりりしさ。
 なんともいえないドキドキ感。
 わたしも、部長のように舞台に立ってみたくて。
 部長に追いつきたくて、無我夢中で演劇部での日々を過ごしてた。
 と、いっても失敗ばっかりで、まだまだひとつも実になってない。
 ヘコむのは日常茶飯事。
 でも、部長は、そんなわたしのこともちゃんと見てたんだ。
 そのあたたかなまなざしで、ずっとわたしのこと見守ってくれてたんだ。
 うれしいな……。
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