唇を隠して,それでも君に恋したい。
「座りなよ」
その一言だけで,百合川さんは自分の話も止めて嬉しそうに瞳を輝かせる。
「うん!」
その返事すらいらないほど,身に染みるように伝わってきて。
僕は百合川さんと顔を合わせた。
まともに見たのは,初めて会ったあのときだけだったかもしれない。
僕は既に認めていた。
百合川さんが自分の中で大きくなって,生まれて初めて,自分が誰かを可愛いと感じていることを。
僕は本当は解く必要が微塵もない程簡単だと思っている赤本を,ぱたんと閉じる。
頬杖をついて,百合川さんを眺めた。
不思議な気持ちだ。
すると,みるみるうちに百合川さんの顔が真っ赤に染まって,僕はつい,笑ってしまった。
「君がいつも僕にすることでしょ」
そう言うと,もっと赤くなって,何か言い返そうとしたのかおろおろとする。
僕も,傍目に見たらこんな感じだったんだろうか。
「百合川さんは勉強しないの? 必要ないかもしれないけど,上の大学とか目指すなら教えようか?」
「……いいの? ユリユリね,就きたい職業があるの。別に今のままならあんまり勉強は必要ないんだけど」
「いいよ。僕と一緒にいるんでしょう。どうせ暇なら,有意義な時間にしよう」