唇を隠して,それでも君に恋したい。
ボクのススムミチ。
僕のリカイシャ。
「リュ,リュー?」
リューは自分の顔を腕で隠したまま,一言も発さず動こうともしない。
僕はリューの身体を横から渡るようにして,リューを覗き込んだ。
もしかして,僕との接触以前に打ち所が悪かったりしたんだろうか。
そうだったらどうしたらいいんだろう,きゅ,救急車?
リューは僕を助けてくれたのに。
か細く名を呼ぶ僕の声に,リューは小さく唇を引き絞った。
「悪い。伊織,怪我してないか」
「う,うん。それよりリューは」
リューの手を引き立ち上がらせる。
僕たちは互いを思いやりながら,自身でも何か怪我などの異変がないか確かめた。
僕はちらりとリューを見る。
リュー,普通だな。
何かを抑え込んでいるような様子もない。
「えっいやいやいや! お前ら!」
「いやはお前だよ三太!!!」
前ではぎゃーぎゃー喚く三太を,クラスメートの1人が口ごと取り押さえられていた。
あ
そうだ僕たちいま。
端から見たら,突然教室の真ん中で公開事故チュー起こした2人……
自然と目線が三太から隣の敦へと移る。
……あぁ,見られた。
僕の,ファーストキス。
手のひらでマスク越しのそこを押さえる。
僕,ほんとに持ってないな。