地味子は腹黒王子に溺愛され同居中。〜学校一のイケメンが私にだけ見せる本当の顔〜

番犬ならぬ番ライオン!?










番犬ならぬ番ライオン!?


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な、なんだったの……?




恐るべし、聖那さんの破壊力……っ




緊張が解け体の力も抜け、教室の入口にへなへなと座り込む。





聖那せんぱ………聖那さん、あんな顔もするんだ……。




あんな………




思い出してしまい、心臓の鼓動が早まっていくのが分かる。




私、もしかして、ドキドキ……とか、しちゃってる?




「優羽っ!」




周りが私と去っていった聖那さんの後ろ姿に注目する中、私の名前を呼ぶ人物が1人。




あれっ……?




「牙央くん!?」




駆け寄ってくるなり私の頬を両手で優しく挟むのは、幼なじみの弓波牙央(ゆなみがお)くん。




覚えていないけど、幼稚園はどうやら一緒だったみたい。




小学校は別で、ちゃんと話したのは中学校に入学してから。




幼なじみなのか危ういラインだけど、ここは幼なじみってことで許してね。




牙央くんは男性恐怖症の私を気味悪がったり避けたりせず、むしろ優しくしてくれた、私の唯一の男の子の友達。




っていうか、性別に限らず友達は牙央くんだけなんだけどね。




少しぶっきらぼうだけど、困っている人がいたら放っておけず、意外なことに小動物が大好きで、お家では猫やハムスターを飼っているような可愛いところもあるんだよね。




「牙央くん!牙央くんもAクラスなの?知り合いがいてよかった、私、1人じゃ不安だっ……むぐっ」




頬を挟む力を強くされて、喋れなくなって
しまう。




「はおふん?」




うまく喋れないよ……?




「優羽っ!!」




さっきよりも大きい声で名前を呼ばれ、どうしたのかなと疑問に思う。




「この格好どうしたんだ!?それに、なんで優羽が生徒会長と仲良さげにしてんだ!?」




すごい勢いに少し仰け反ってしまう。




「ほっへはははひへ?」




「あっ、悪い」




ほっぺたを離して欲しいとお願いすると、すぐに離してくれた牙央くん。




そういえば、牙央くんにこの格好のこと、言ってなかったような……。




「えっとね、これにはワケが……」




───




「はぁ、なるほどな………」




事情を説明すると、何故か牙央くんは納得したように頷きながら言った。




えっ、納得なの!?




絶対おかしいよね?




「そりゃそうだよな、ほんとの優羽を見られるわけにはいかねぇよ……おばさんたちナイス!」




牙央くんが何か小声で言っている。




「牙央くん?」




そう言うと、はっとしたような素振りを見せた牙央くん。




「ああ、わりぃ。優羽、絶対その変装やめちゃダメだからな。分かったか?」




どうしてだろ?




と思いながらも、おばさんたちの願いでもあるし、一応頷いておく。




「うん、分かった!」




「よし、優羽は偉いな」




そう言って、牙央くんは私の頭を撫でてくれる。




牙央くんは、何かと私を褒めて、いつも頭を撫でてくれたりする。




その手はいつも温かくて、頼りになるお兄ちゃんみたいな存在なんだ。




「えへへ」




「っ……やっぱこの格好でもマズイか?」




え?




「マズイって、何が?」




「え!?あ、ああ、いや、こっちの話……って、優羽!」




「は、はいっ?」




何かを思い出したかのようにまた私の名前を呼んだ牙央くん。




びっくりして思わず敬語になっちゃった。




「生徒会長はなんなんだ!?まだその話しは聞いてねぇぞ!」




「え?あっ、忘れてた」




変装の話を経て、聖那さんのことを説明するのを忘れてしまっていた。




「えっと、私……迷子になっちゃって」




「はあ?なんで……って、そうだった、お前方向音痴だったな」




「ち、違うよ!この学園が大きすぎるだけだもん!」




「はいはい」




「もうっ、牙央くん!」




「ははっ、わり。優羽が可愛くて、つい」




「か、可愛いって言われても、許してあげないんだからねっ」




いつもならすぐ許してあげるんだけど、ちょっとイタズラしてみる。




「え!?ゆ、優羽、ごめん。ほんと、俺が悪かった、反省してる……お願いだから許してくれ。な?ダメか?」




子犬のような瞳で見つめられる。




毎回こうだもん。




この瞳にやられて、最後には許しちゃう。




やっぱり今回も、この瞳には勝てないみたい。




「ふふ、いいよ。牙央くんかわいいっ」




「!?か、かわ……ち、ちげぇよ、俺はかっこいい、だろ?」




「うん!かっこいいし、可愛いよ!」




小動物が好きなところも、褒めてあげると顔が赤くなるところも、運動神経がいいところも、頼りになるところも、全部、牙央くんのいいところ。




私の、自慢の友達。




「〜〜あーっもう……かなわねぇな、優羽には。で、迷ってどうなったんだ?」




「あ、えっと、私……男の人が怖いんだけど、初日だし遅れちゃいけないと思って、通りかかった聖那さんに声をかけたの。生徒会長だっていうことは後から聞いて……」




「え、大丈夫だったか!?あいつに何かされてないか!?」




急に私の目を真っ直ぐ見て言う牙央くん。




牙央くんの瞳には心配の色が浮かんでいて、本当に心配してくれているのがよく分かる。




聖那さんは怖くなかったって言ったら、牙央くんびっくりしちゃうかな、ふふっ。




「大丈夫だよ、すごく優しくしてくれて、聖那さんのことは怖くなかったの!……それと牙央くん、あいつって言っちゃダメだよ?聖那さんは生徒会ちょ、う……」




急に暗い雰囲気になった牙央くんに言葉をきる。




「聖那さん?」




声のトーンが下がり、過去の記憶がフラッシュバックしてくる。




“あの人”の、耳が張り裂けそうになる、低くて大きい………




恐怖で、体が動かなくなる。




「……う……ゆう」




いや、いやだ……お母さんっ。




「優羽っ!」




「っ……が、牙央くん……」




すると、牙央くんはとても辛そうな顔をして、私を抱きしめた。




「ごめん、ごめんな……俺が怖がらせちまったな、思い出したんだろ、昔のこと。ほんと、ごめんな………」




優しい手で、やっぱり頭を撫でてくれる。




次第に心が落ち着いてくる。




「……ううん、大丈夫だよ、牙央くんのせいじゃないよ」




むしろ牙央くんがいてくれたから、今の私がいる。




牙央くんには、いつも感謝してばかりなんだよ?




「優羽………」




そう言っても牙央くんは、まだ悲しそうな顔をしている。




周りがこちらを注目し始める。




これまさか、私が牙央くんをいじめたみたいになってる………!?




ここでも避けられるなんて、そんなのいやだっ。




この雰囲気をどうにかしたくて、必死に話を戻す。




「え、えっと、なんで牙央くんはそんなに聖那さんのことを気にするの?」




すると、牙央くんは少し悔しそうな顔をした。




「………だって、あいつのこと名前で呼ぶから……」




「え?」




すると、今度は顔を赤くして。




「〜〜っだから、名前で呼んで欲しくねぇんだよっ」




もしかして、これって………




「牙央くん、ヤキモチ妬いてる?」




「……そ、そうだよ、悪いか?」




「!」




まさかとは思ったけど、牙央くんが本当にヤキモチを焼いてくれてるなんて……ふふっ。




牙央くんが素直に言ってくれたことが嬉しくて、胸が高鳴る。




「ううん、全然、悪くないよっ」




でも………




「ごめんね、牙央くん。聖那さんって生徒会長さんだし……私を助けてくれた人なの。だからお願い、名前呼びをやめるのはちょっと……
ダメ、かな?」




それに何より、私自身がなぜか聖那さんのことは名前で呼びたいと思っていたから。




「っ……!やっぱこのカッコだけじゃ足りねぇよ……あ、ああ、いや、俺が無理言ったな、優羽の好きにしろ。そもそも俺にそんなこと決める権利ねぇし……」




「っ、ありがとう、牙央くんっ!」




そう言って、牙央くんに抱きつく。




「ゆ、うっ……お前、俺以外のやつにこんなことしたらダメだからな?」




こんなことって、ぎゅ〜のこと?




「しないよ!だって、男の人怖いもん……」




「そうだな。じゃあ、俺は?」




「牙央くんは別だよっ、私が中学生の時から、ずっと仲良くしてくれてるもんね。改めていつもありがとう、牙央くんっ!」




「俺は、別………優羽は、俺だけの……」




「牙央くん?」




今日、牙央くん独り言多いような……?




何か、悩みでもあるのかな?




でも、それは杞憂だったみたい。




牙央くんは次の瞬間には明るい笑顔で言った。




「ああ。俺のほうこそ、いつもありがとう、優羽」




「うんっ、それでね………」




お互いにお礼を言い合った後、聖那さんが教室まで送り届けてくれたことを説明した。




説明し終わるときには、着席完了までもう1分をきっていたので、それぞれの席に座ることにした……




「って、牙央くん私の後ろだったの?」




「ああ、俺、出席番号2番」




「す、すごいね………」




牙央くん、昔からテストの点高かったし、人に教えるのも上手だったもんね。




私も、昔はよく牙央くんに分からないところを聞きに行っていた。




というのも、私の家のお隣さんのお隣さんが牙央くんのお家なのだ。




でも牙央くんは、納得のいっていない表情で。




「いや、俺は1番じゃなきゃダメなんだ。じゃねぇと、昔みたいに優羽に教えてやれねぇ……」




負けず嫌いな性格も相まって、悔しさは人一倍あるんだと思う。




「テストでいい点がとれるように、一緒に頑張ろうね、牙央くん!」




「ああ、負けねぇぞ?」




「ふふ、私も負けないよ!」




そして、担任の倉持先生が話を始めた。




「皆さん、ご入学おめでとうございます。Aクラスという優秀なクラスの担任となれて、私も嬉しいです。早速ですが……」




と、お祝いの言葉と、入学式についての説明があり、私たちは体育館へ移動することとなった。





出席番号が1番と2番の私と牙央くんを先頭に、2列で体育館へ向かう。




歩き続けて約5分。




やっと体育館に到着した。




この学園大きすぎるよ……。




移動教室の時とか、全力で走らないと間に合わないんじゃ……?




そこからさらに数分待ち、パッヘルベルのカノンが流れ始める。




私、うまくできるかな……?




い、いやっ、ただ歩いて座るだけなんだけど、それでも運動音痴な私は何も無いところで躓く可能性があるから……うぅ、なんで私運動音痴なんだろう……?




体育の授業、頑張ってきたのに……。




トップバッターで緊張も人一倍あり、私が不安になっていると。




「優羽、大丈夫だ。隣に俺もいる。だから、胸張って歩こうぜ」




牙央くん……。




いつも助けられてばかりだな。




「……!うんっ」




そして、体育館へと足を踏み入れる。




そしてまず思ったのが。




体育館、広すぎない……?




天井だって高いし、バスケットコートもいくつあるのか分からないくらいだから、感動よりも驚きが勝ってしまった。




でも、そんな広々とした空間でまず1番初めに目に入ったのは、舞台の左下で椅子に座って待機している、聖那さんの姿だった。




聖那さん、生徒会長だから舞台に上がるのかな?




などと期待しながら1歩、2歩と足を進め、指定された自分の席へ座る。




時は流れ、聖那さんが舞台上に。




私たち新入生へ、お祝いの言葉を並べる。




聖那さん、かっこいいなぁ。




蒼穹学園の生徒会の制服は、一般生徒の制服と少し違っていて、装飾が多い。




騎士のようなかっこいい制服にも見劣りしない聖那さんの顔立ちが、ライトに照らされてより一層綺麗に見える。




“生徒会長からの言葉”が終わり、聖那さんが舞台を下りている時、私と目が合った。




すると、聖那さんはニコッと安定の眩しい笑顔で微笑みかけてくれた。




聖那さんの笑顔はまるで魔法みたい。




どんな人でも、笑顔にしてしまう魔法。




きっと、聖那さんは真っ直ぐで後ろめたいことなんて何も無くて、自分を貫き通すような人なんだろうな……




───────




と、思っていたのに………




「“この”俺を見ても、そう思える?」




聖那さんの様子が、おかしいです。



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