地味子は腹黒王子に溺愛され同居中。〜学校一のイケメンが私にだけ見せる本当の顔〜

生徒会長の裏の顔










生徒会長の裏の顔


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時は遡り30分ほど前。




入学式は無事に終えることができた。




そして今は自由時間。




初日は入学式だけで、その後はそれぞれ校内を回ったり、寮で過ごしておくのもいいことになっているからだ。




「優羽はどうする?学校回るか?」




さっきみたいに迷子になったらいけないし、校内を把握しておきたいのは山々なんだけど……




「私、寮に届けられた荷物が揃ってるか不安なの。中身も確認したいし……」




寮で使うものは予め家から移してあり、何か忘れていたら不便だから、確認しておきたかった。




「だから、私は寮で過ごそうかな」




「ん、分かった。じゃあ、寮まで送ってやる」




牙央くん、また私が迷うかもって思ってるのかな……?




もうっ、私は大丈夫だもんねっ。




「ううん、大丈夫。寮への道は分かりやすいし、絶対迷子にはならないから!」




「いや、そうじゃねぇけど……分かった。じゃ、また明日な」




「うんっ、牙央くん、また明日!」




お互い手を振って、その日はお別れすることにした。




寮は学園の裏に位置している。




学園の玄関を右に曲がり、石のタイルでできた道の上を歩いていくと、寮が姿を現した。




寮っていっても、これはもう……




「タワーマンションみたい……」




首をうんと曲げないと最上階まで見えないくらい、高さのある寮。




私は、この寮の001号室。




話によると、その001号室があるのは最上階の1個下の階らしい。




最上階の1個下って………もう、言葉を失っちゃうよ。




エントランスには大きなシャンデリアがあり、コンシェルジュの方も。




そこで部屋番号を言い、カードキーを受け取る。




そして、人生でいちばん長い時間エレベーターに乗って上の階へと上がる。




やっと到着した……えっと、001号室は……
あった!




カードキーをかざし、ロックを解除する。




どんなお部屋なのかな?と、胸が高鳴る。




その時、後ろからお向かいの部屋のドアが開く音がした。




振り返ると、そこにいたのは。




「えっ、聖那さん!?」




「あれ、優羽ちゃん?ああ……そうだったね」




002号室……もしかして……




「ここ、俺の部屋」




「えっ!?」




聖那さんのお部屋がまさかのお向かい!?




この階は特別らしくて、男女が別れていない上に、部屋が全部で6つしかないんだって。





男女が別れてないのはどういう意図なん
だろう……?




その6の部屋には、現生徒会長と現副会長2人、そして1年の首席、次席、三席。




つまり次の生徒会長候補と副会長候補2人が入寮する決まりになっている。




聖那さんは現生徒会長で、私が1年首席だから、これから私たちこの部屋で1年間過ごすってことだよね?




とんでもないことになったのでは……?




「……ん、……ちゃん、優羽ちゃ〜ん」




「あっ、すみません、ぼ〜っとしてて」




聖那さんとこれからお向かいの部屋で暮らしていくことになるなんて、頭がついていけないよ……。




すると、聖那さんは心配そうな顔を浮かべて言った。




「大丈夫?熱があるとか……」





聖那さんも牙央くんと同じ心配性なのかな?




「あっ、いえ、ただちょっと考え事を……」




「そう?ならよかった」




そして微笑む聖那さん。




ま、眩しい……っ!




聖那さん、かっこいいしモテるんだろうなぁ。




恋をしたことがない私とはかけ離れた存在なんだと思う。




「優羽ちゃんは、これから学校を見て回るの?」




「あっ、いえ、ちゃんと部屋に必要なものが揃ってるか荷物を確認したいので、今日は1日部屋で過ごそうと思います」




「そっか。あのさ、優羽ちゃん」




「はい」




何かと思ったら、思いもよらぬ提案をされた。




「もしよかったら、荷物確認したあと、俺の部屋に来ない?」




えっ、聖那さんのお部屋!?




現生徒会長で、女の子を虜にする聖那さんのお部屋、気になる……!




あっ、でも、生徒会のお仕事とか大丈夫なのかな?




「あ、ちなみに今日は生徒会ないから、大丈夫だよ」




「!」




心を読まれた……!?




「どうして私の考えてることが分かったんですか?ハッ、もしかして聖那さんには特別な力が……」




「ないない」




右手を左右に動かしながら言った聖那さん。




さすがにですよね……。




「だって、すごい顔に出てるから」




「!は、恥ずかしい……」




絶対変な顔してたよ〜……。




そんな顔を聖那さんに晒してしまったことが恥ずかしすぎて、思わず口にも出てしまった。





「どうして?難しい顔してる優羽ちゃんも、すごく可愛かったよ」




「っ……聖那さんって、すぐ可愛いって言いますね……」




普段から言い慣れているのでは?と目を細める。




すると、聖那さんは慌てふためいて。




「えっ、違うよ?誰にでも言ってるわけじゃないよ!?」




じゃあ、なんで私なんかに言ってくれるんですか……?




とは聞く勇気がなかった。




「ふふ、分かってますよ」




嘘を、ついてしまった。




聖那さんは優しくてかっこよくて……そんな聖那さんの周りにはたくさんの可愛い女の子がいるんじゃ?




………あれ、私、なんでこんなことが気になってるんだろう?




理由が分からないまま、笑顔を返す。




「じゃあ、荷物片付いたらインターホン鳴らしますね!」




「うん、待ってるね」




そう言って、私は自分の部屋へ入った。




玄関に入りすぐに思った。




「わっ……広すぎない?」




オシャレな家具がたくさんあり、大きな窓から見える外の景色はとても綺麗だった。




リビングのソファの後ろにダンボールが置いてある。




あれが荷物だよね。




もうちょっと部屋を見て回りたいけど、聖那さんを待たせちゃったらいけないし、早く確認しよう!




20分くらいで確認が終わり、幸い家に忘れたものは無かった。




これで一安心。




部屋の電気を消して、聖那さんのお部屋へ向かう。




インターホンを押すと、すぐにガチャッとドアが開いた。




「いらっしゃい、早かったね。どうぞ」




聖那さんは安定の笑顔で招き入れてくれる。




「お、お邪魔しますっ」




私が玄関に足を踏み入れると、聖那さんは先に部屋へ行くよう促す。




聖那さんの前に立ち、リビングへ向かっているとき。




「男の部屋にこうも………危ねぇな……」




そう聞こえた気がして、後ろを振り返る。




「今、何か言いました?」




「え?いや、何も言ってないよ」




「?そうですか……」




確かに聞こえたと思ったんだけど……でも、そうだよね。




聖那さんが危ねぇな、なんて言い方するわけないもんね。




ほんの少しの違和感を胸に、ドアノブを押す。





そこには、暗い雰囲気でまとめてあるモダンな部屋が。




大人の男の人って感じの部屋で、オシャレだしかっこいいけど……




なんだか、聖那さんらしくないというか……。




聖那さんのような人はもっと明るい色の部屋なのかなと勝手に思ってたけど、そうじゃないみたい。




「どう?俺の部屋。こんなこと聞くのは褒めて欲しいわけじゃないけど、結構この雰囲気気に入ってるんだよね、俺」




そう言われて咄嗟に言葉を返す。




「私もこのお部屋の雰囲気好きです!大人っぽくて、聖那さんに合っててとってもいいと思います!でも、予想はもうちょっと明るい雰囲気かなと思ってました」




「へぇ、そう?じゃあ……」




そう言うと、後ろから私を抱きしめてくる聖那さん。




えっ、




「っ……聖那、さん……!?」




雰囲気が、変わった……?




「“この”俺を見ても、そう思える?」




そして私の耳元で、




「ゆ〜う」




そう、名前を言った。




今まで、優羽ちゃんって……。




「聖那さん、離してください……っ」




ちょっと、これは聖那さんでも……怖い、かも。




そのまま私は聖那さんにお姫様抱っこで抱えられ、リビングのソファへ寝かせられた。




聖那さんの顔が、天井のライトを遮るように私の顔の10センチ上に。




「男の家にのこのこ入ったらダメだろ?オオカミ
は、獲物を前にして我慢したりしない………」




あの優しい口調と笑顔は、今や、圧で相手の身動きを取れなくし、舌なめずりをする猛獣の笑みになっていた。




「すぐ、食べられるぞ?」




ワルい顔をしている聖那さんは、いつも以上に美しかった。




「や、だ………」




でも、こんなのおかしいですよ……っ




早く逃げなければ。




そう思うのに、体に力が入らない。




このままじゃ私、聖那さんのことを求めてしまいそうだから……っ




「好きなヤツが自分の部屋にいんのに、我慢しろって?そんなん無理に決まってんだろ?」




えっ……好きなヤツって、まさか私のこと……?




今日初めて会ったのに、そんなはず……。




聖那さんの手が私の髪に触れる。




「なぁ、優羽……この髪、偽モンだろ?」




「!?ど、どうして……」




冷や汗が流れ、背筋が凍る。




聖那さんに、変装がバレていた?




あまりの展開に、頭がついていけない。




王子様みたいな聖那さんの面影は、最早もうどこにも見当たらなかった。




聖那さんは、私が着けている伊達メガネを
右手でそっと外した。




「コレも、この瞳も……綺麗なペイルブルーが隠れて勿体ない」




っ……!




もとの瞳の色まで知ってるなんて、聖那さんは一体……




何者なの?




でも、今はそれよりも、この変装のことを口外しないと約束してもらうことが優先だった。




おばさんやおじさんを悲しませるわけにはいかない。




「聖那、さん……っ」




「ん?」




低く、圧のある声。




その恐怖に少し体を震わせながらも、聖那さんの瞳をまっすぐ見て。




「どうして聖那さんが変装のことを知っているのか、私には分かりませんっ……でも……」




この秘密は、絶対に守り抜く。




「この秘密をバラされるわけには、いかないんですっ……」




「……へぇ?ちゃんと言えるんだな」




それがどういう意味なのかも気にせず、私は言う。




「約束してくださいっ……絶対に秘密を口外しないって」




怯えながら震える声で言った。




「はぁ……」




聖那さんは大きくため息を吐いた。




私の体がビクッと震える。




聖那さんと初めて会った、あの時のように。




「もしその約束を守ったとして、俺にメリットは?」




ガラス細工を触るように私の頬を優しくなでながら聖那さんは言った。




「っ………なんでもします。だから、お願いしますっ」




未だにソファに追い詰められたまま、声を振り絞って。




聖那さんは、私の返答を聞くなり悪い笑みを浮かべた。




「なんでもなんて言ったらダメだ。無理なお願いされたらどうするんだよ?俺だったから良かったものの、はぁ……心配でどうにか
なりそー……」




「え……」




心配?




“今の”聖那さんが、私のことを心配してくれたの?




少し嬉しいような、それでも複雑な気持ちが、心の中で混ざり合う。




「ふっ………なぁに驚いてんだよ。そりゃ心配にもなる。あまりに警戒心がないから。でもまあ、なんでもって言ったからな?後悔すんなよ」




その言葉を聞いた瞬間、さっきの少しの嬉しさはどこかへ消え去ってしまった。




何を言われるんだろうと、身構える。




その時。




私と聖那さんの周りだけ時間が止まったかのような静寂につつまれた。




そして、




ちゅっ




30畳の、学生寮のリビングにしては広すぎる空間に響いたリップ音。




聖那さんが、私の頬へキスをした。




と同時に、私の顔はリンゴのように赤くなった。




キスをされた部分を反射的に押さえると、その部分だけひどく熱かった。




「なっ……」




その驚きを倍増させるように、聖那さんはもっと衝撃の言葉を口にした。




「優羽、俺と一緒に住め」




「……え?」




自分の耳を疑う。




幻聴……だよね、そう、きっと幻聴。




でも聖那さんは、現実から目を背けようとする私を逃がしてくれなかった。




「この部屋に、俺と一緒に住むんだ」




うそ、だよね?




「嘘じゃねぇよ。なんでもするって言ったのは
優羽だろ?」




また聖那さんの特殊能力で心を読まれる。




いやいや、待って。




私が聖那さんと一緒に……この部屋に住む?




「む、むむむ無理ですっ」




「無理?嫌じゃ、ないんだ?」




「〜〜っ」




そう、無理とは言った。




でも、嫌だとは思わなかったのだ。




そんな自分を、認めたくはないけど。




「はい、は?ほ〜ら、バラされたくないんだろ?」




もう、この狼から逆らうことは出来ない。




「は、い……」




言ってしまった。




「よし」




聖那さんは満足そうに言った。




まさか、最初からこれが狙いで……?




いや、そんなはずない……




そうでしょ?




「優羽はもう、俺のモンだ。優羽、愛してる」




そして、さっきよりも顔が近づいてくる。




あ、これ、キスされる。




それも、今度は唇に。




ダメっ……。




逃げようとしても、驚くほど強い力で手首を握られていて身動きが取れない。




唇が触れるまであと1センチ。




もう無理だと、諦めたその時。




「ピーンポーン」




インターホンが鳴り、近づいてくる聖那さんがピタッと止まった。




至近距離で目が合う。




「かわいい」




「っ……すぐ、そう言う……」




私の反応にふっ、と小さく笑いをこぼして、キッチンの近くにあるタブレットで、玄関のロックを解除する聖那さん。




まるで、誰が来たのか分かっているかのよう
だった。




玄関のドアが勢いよく開いた。




「優羽っ!!」




「あれ、牙央くん……」




そう。




そこにはなんと牙央くんの姿が。




「どうして牙央くんが……」




体に力が入らず、ソファで横たわりながら聞く。




牙央くんは、私の顔を見るなり安心した顔をした。




でも、私がソファから動かないのを見てなにか察したのか、私を抱きしめた。




「ああ……優羽、よかった……ごめんな……」




牙央くん、声震えてる……。




どうしてこんなに牙央くんが私を心配していたのか、そして何故牙央くんが謝ったのかは、考えても分からなかった。




「ねぇ、本当に……どうしたの、牙央くん?」




「……まえが……」




声が小さくて、何を言っているのか聞き取ることが出来ない。




「え?」




「お前が、コイツん家に入っていくのを見て……30分経っても出てこないから、何かされてんじゃねぇかって思って……っ」




牙央くんは1年次席で寮も私たちと同じ階だから、偶然私が聖那さんの部屋に入っていくのを見ていてもおかしくない。




30分って……そこまで長い時間じゃない
でしょ?




出た、牙央くんの心配性。




そう思いながらも、牙央くんを不安にさせてしまったのには罪悪感を覚える。




「牙央くん、ごめんね……」




「おい」




牙央くんに謝ると、聖那さんが口を開いた。




牙央くんはその声を聞いて、私を抱きしめる力を強くした。




「他人の家に土足で上がり込んどいて、その上優羽に抱きつくだと?離れろ、優羽は俺の
モンだ」




え!?




牙央くんの足元に視線を落とすと、聖那さんの言う通り靴を履いたままだった。




牙央くん、確かに靴は脱がないと……!




私がそんなことを思っている中、牙央くんは勢いよく立ち上がり、聖那さんの胸ぐらを掴んだ。




「っ、牙央くんやめて……!」




「おい、ふざけんなよ。コイツはな、男が怖いんだ。アイツのこと何にも知らねぇくせに、自分のもの呼ばわりしんてんじゃねぇ。優羽は物じゃねぇんだよ!」




優羽は物じゃない。




そう言ってくれたのが、とても嬉しかった。




でもそうしないと、変装のことがバレされて
しまう。




「牙央くん、いいの」




「っ、何が……!」




「聖那さんっ!」




牙央くんの言葉を遮って、聖那さんの名前を
呼ぶ。




牙央くんを落ち着かせないと……っ。




そのためには、牙央くんではなく私が聖那さんと話をするしか無かった。




「なんだ?」




「約束、守ってくれるんですよね……?」




「ああ。優羽が約束を守ってくれるならな?」




「おい、なんの話だ……」




「……はい、守ります」




「いい子だな」




聖那さんは、牙央くんの手を乱暴に
払い除ける。




「牙央くんっ……!」




「優羽、こっちにおいで」




痛そうに顔を歪めている牙央くんが心配で、
今すぐ駆け寄りたい。




でも、今はこれが、牙央くんを守る最善の
方法。




大人しく、聖那さんの元へと行く。




すると、聖那さんは私の後頭部に手をそっと優しく添えて、キスをした。




「んっ……」




それも、唇に。




「なっ……」




これじゃまるで、牙央くんに見せつけているみたいになってしまっている。




私のファーストキスは、最悪の形で奪われた。




それよりももっと最悪なのが、私がキスを拒めなかったこと。




そんな自分に嫌気がさす。




「聖那……さんっ!」




聖那さんを押しのける。




牙央くんはとても衝撃を受けているようで、その表情は見ているこちらも胸が痛むほどだった。




「聖那さん……また、後で荷物を移しますので、今はこれで失礼します」




私は最大限優しく牙央くんの名を呼び、2人で聖那さんの部屋を後にした。




入学式当日に、とんでもない事になってしまったことを悔やむ。




いっそ、時が戻ればいいのにと思ってしまう
ほど。




それなのに、私の心臓は………




「どうしてこんなに、うるさいの……」



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