地味子は腹黒王子に溺愛され同居中。〜学校一のイケメンが私にだけ見せる本当の顔〜
腹黒生徒会長との同居生活

初めて










初めて


───────────────









「牙央くん………」




お部屋を出てから、牙央くんはずっと悲しそうで辛そうな顔をしている。




「優羽、何があったんだ?それに秘密って、荷物
移すってなんだよ?」




さっきまでの緊張が解けて涙があふれる。




「あ、あれ、なんか……涙が止まらな……
うっ……うう……」




「っ、優羽……?大丈夫だ、大丈夫だから……」




ああ……牙央くんの手が温かい……。




そう安心していると、私は肝心なことを思い出した。




「っ、牙央くん、手!さっき痛かったでしょ?」




「いや、なんてことねぇよ。心配してくれてありがとな」




嘘ばっかり。




本当は痛いはず。




それなのにいつも牙央くんは我慢して、
自分以外の人のために嘘をつく。




「それより、優羽。アイツに………どんなことされた?お前を泣かしたんだ、放っておけねぇ」




「………うん、中で話そう」




そう言って、私は牙央くんを自分の部屋に
入れた。




リビングのソファに静かに座って、今まであった出来事を話した。




聞き終えた牙央くんは、拳を震えるほど強く
握りしめた。




「っ………アイツ!」




私のために怒ってくれる牙央くん。




でも、もう決めたことだから。




「秘密を守るためには、これしかないの。でも
牙央くん、そんなに心配しなくても大丈夫
だよ!」




牙央くんをこれ以上不安にさせないように、今できる精一杯の笑みで言った。




「牙央くんも私が強いこと知ってるでしょ?」




いじめとか、“あの人”に比べれば、全然平気!




「俺は………」




今、きっと牙央くんは、自分を責めている。




この事態を防げなかったことに。




そんな牙央くんに、自分を責めさせないようにも、私はいつもみたいに笑う。




「牙央くん、行ってくるね」




「っ………」




最後に何か言いたげな顔をしていた牙央くんに背を向け、私は荷物を持ち聖那さんのお部屋へ向かった。




聖那さんは、出迎える時は生徒会長としての口調だっけど、部屋に入った途端、あの
オオカミの時の口調に戻った。




部屋は多くあるうちの一室を貸してくれた。




夕食は1階にある食堂に食べに行くと言って出ていき、お風呂は先に入っていいと譲ってくれたり、特に変わったことは何も無かった。




そう、“特には”何も無かったんだけど……あるとすれば。




「明日の朝、覚悟しとけよ」




明日の朝?




何かあるのかな……?




理由を聞こうとしたら、寝ると言って自室へ行ってしまった。




ベッドで布団の中に潜り思う。




「どういう意味なんだろう……?まぁ、明日の朝になれば分かるよね!」




そう自分を納得させるように独り言を呟いて、私は眠りについた。




─────




翌朝。




時刻は6時半。




私は朝食以外は準備万端だけど、聖那さんはまだ眠っているようだった。




朝は食堂は開いていないから、各自朝食を作らなければならない。




う〜ん、何を作ろうか。




聖那さんが甘いもの苦手だったらいけないからパンケーキはなしで……無難にホットドッグにしよう!




……と思ったんだけど、ホットドッグに合う形のパンがなかったから食パンでサンドイッチを作ります!




まだ聖那さんは怖いけど、迷ってた私を助けてくれた聖那さんも本当の聖那さんの優しさだと思うから、美味しいって言ってもらえるように頑張ろう!




昨日の出来事を無理やり忘れさせるように、
テンションをいつもより高くして意気込んだ。




20分後、食パンを2枚と半分使って、計5個のサンドイッチを作った。




私が2個で、聖那さんが3個。




使わなかった食パンの耳は………おやつの
ラスクにでもしようかな。




おやつのことを考えると、思わず表情が緩んでしまう。




はっ、いけないいけない。




聖那さんを起こしに行かないと。




最初はそんなつもり無かったんだけど、聖那さんが7時になった今も起きてこないから、もし
まだ寝ているのなら時間がまずい。




寮だから登下校にかかる時間が少ないのは
いいけど、朝の着席完了時間は8時なのだ。




つまりあと1時間。




生徒会長が遅刻するわけにはいかない
ですよ、聖那さん!




そう心の中で言い、、聖那さんの自室へ
向かう。




「コンコン」




「………」




ドアをノックしても、中から返答はない。




「聖那さん、入りますよ〜……」




そこには、ベッドの上で心地良さそうに寝ている聖那さんの姿があった。




こう見てると、やっぱり聖那さんって世間一般的に言う“イケメン”なんだなって思う。




もっと見ていたいけど、聖那さんを起こさねば。




「聖那さん、聖那さ〜ん。起きてくださ……
きゃあっ!?」




私は今、聖那さんの腕の中に。




急に手首を掴まれたかと思ったら、ものすごい力でベッドの方へ引っ張られたのだ。




もしかして、聖那さんが言ってた覚悟しとけって……この事だったの!?




「せ、な……さんっ。離してっ、ください……!」




腕から抜け出そうとしても体はビクともしない。




どれだけ力強いの……!?




ああ、もうっ。




このままでいいから起こさないと!




きっと、寝ぼけてるからこうなってるんだよね!?




ここ最近で1番大きな声を出す。




「起きてくださ〜いっ!」




すると、ゆっくりも聖那さんの瞼が開く。




「ん……あれ、優羽?寝込み襲いに来たのか?
悪いコだな」




「襲う?違います、私は強盗なんかじゃあり
ません!」




せっかく起こしてあげたのに、襲うだなんて!




すると聖那さんは、なぜか少し呆れたような顔をした。




「……お前、極度の天然だな」




「天然?もうっ、さっきからなんですか、私は
お母さんのお腹の中からうまれたんですっ」




そう反論すると、聖那さんは声を抑えて
笑い出す。




「どうして笑うんですか!」




「い、や?悪い……ふっ。これはもう……
あははっ」




むう。




ずっと笑ってばかりで理由を教えてくれない
聖那さんなんか、もう知〜らないっ。




聖那さんを起こすという任務も果たしたし、
リビングへ戻ろうとした時。




そこで思い出した。




「聖那さん、いい加減離してくださいっ!」




聖那さんが起きても、聖那さんの腕の中から脱出出来ていないことを。




「いやだ」




「いやだじゃありませんっ」




駄々をこねる小学生を相手にしているみたい。




ほんと、生徒会長の聖那さんとは大違い……。




「俺を1人に、しないでくれ………」




「!」




聖那さんが放ったその言葉。




まだ、寝ぼけてるのかな?




もしそうじゃないなら……。




「1人になんかしませんよ、絶対に」




そう言うと、安心したかのように聖那さんの腕の力が緩んだ。




やっと抜け出せた!




今さらだけど。




「おはようございます、聖那さん」




「おはよ、優羽」




朝の挨拶を交わし、手短に伝える。




「聖那さん、サンドイッチ作ってあるので、
着替えたら来てくださいね。また寝ちゃ
いけませんよ?」




「えっ、サンドイッチ?」




とても驚いた顔をする聖那さん。




「はい。あっ、勝手に食材使わせて頂きました」




「じゃあ、優羽の手作りなのか?」




「そうですけど……?」




なにかまずかったかな?




かと思えば、今度はニッコリ笑って。




「優羽の手作り、楽しみ」




「っ………」




そんな愛おしそうな目で見られたら、誰だってときめいちゃうよ……っ




聖那さんの人気の理由を改めて理解する。




「なら、早く起きてくださいねっ」




そう言って、逃げるかのように聖那さんの部屋を後にした。




顔が熱い。




「どうしちゃったの、私……?」




──────




「あっ、ちゃんと起きてこれましたね」




「優羽、お前なぁ……俺のことなんだと思ってるんだ?」




「蒼穹学園の生徒会長なのに寝起きが悪くて、腹黒い1個年上の先輩です」




ちょっと言いすぎかな、と不安になりながら
言った。




「この1日で言うようになったな?」




よかった、怒ってはないみたい。




「ふふっ」




「っ……不意打ちやめろよ……」




「え?」




「何でもねぇよ、食べるぞ」




そう言って聖那さんが両手を合わせる。




「いただきます」




どんな反応が返ってくるかと不安になりながら、聖那さんをじっと見つめる。




「………なにこれ、うま」




「!よかった……っ」




おばさんたちや牙央くん以外に料理を褒めてもらえたのが初めてだから、いつも以上に嬉しくなる。




その後も聖那さんはうまい、うまいと言いながら食べてくれて、10分かからず平らげてしまった。




「聖那さん、量、足りませんでしたか?」




「んー……いつもはあんま食べないけど、優羽の作ったやつなら足りない」




なんっ………!?




「っ……そう、ですか……じゃあ、次からもっと多めに作りますねっ」




聖那さんの不意打ちに驚きを隠せない。




……夜、聖那さん作ったら食べてくれるかな?




あんなこと言われたら、考えずにはいられな
かった。




そして私も食べ終え、食器を片付け、校舎へと向かった。




私たち1年生は1階、聖那さんたち2年生は2階だから、玄関で一旦お別れ……のはずなんだけど。




「………あのー……」




「ん?どうしたの、優羽ちゃん?」




もとの聖那さんに戻ってる!




って、今はそうじゃなくて。




「えっと、聖那さん2階ですよね?なのになんで1年の教室の方に……?」




細かく言うと、1年Aクラスの方に。




本当なら回れ右をして向かわなければならない聖那さんは、何故か私の隣を歩いている。




着席完了まであと10分。




こっちに着いてきてたら、聖那さん遅れちゃう
んじゃ……?




「聖那さん、教室向こうですよね?」




「うん」




「えっと、なぜこちらに……?」




すると、聖那さんは口調を変えて。




「優羽に変な虫がついたらいけないだろ?」




「変な虫?大丈夫ですよ、校内では虫
見ませんし」




虫って、確かに服とかについたら叫んじゃうかもだけど、見る限り周りにはいないよ………?




聖那さんは私の様子をみて呟く。




「そんなんだから心配になるんだよ……」




「え?」




「いや、なんでもない」




そうこうしているうちに1-Aの教室についた。




「では、ここなので」




「ああ」




周りに結構人いるけど、口調戻さなくていいのかな?




そう思っていると、聖那さんは私の耳元で
言った。




小さな声だけど、ずっと耳に残るような
甘い声で。




「俺がいない間に浮気すんなよ?」




「うっ、ううう浮気!?」




「バカ、声が大きい」




はっ、うるさかったかな?………じゃなくて!




そもそも付き合ってないですよっ!




私の反応を見るなり、ふっと笑う聖那さん。




これ絶対面白がってるよ……。




「あ、そういえばこれ、渡してなかった」




そう言って去っていった聖那さん。




私の手のひらには、聖那さんのお部屋のカードキーが置かれていた。




つ……ほんとにこれから、聖那さんと一緒に暮らすんだ……。




まだ1日は始まったばかりなのに、ドキドキさせられすぎてもう既にへとへと。




弱い足取りで席へ向かう。




牙央くん、まだ来てないみたい……。




牙央くん元気なかったし、大丈夫かな?




そう心配していると。




「ねぇ、君!」




机の前に誰か立った思ったら、そこには綺麗な髪を腰あたりまでおろしている、可愛らしい
女の子が。




今まで女の子とあまり喋ったことないから、どうすればいいのか戸惑う。




「なっ、なんでしょうか……?」




「私、園北詩乃(そのきたしの)って言うん
だけど、名前。君は?」




園北詩乃ちゃん……目ぱっちりして、スタイルいいし、可愛いなぁ。




じゃなくて!




「え、と……小戸森優羽ですっ」




「え、もしかして緊張してる?」




「っ……」




もしかして、愛想悪いやつとか思われ
ちゃった?




また、いじめられるの、私?




不安になり、目をぎゅっと瞑ると。




「何この子可愛すぎ〜!」




「……へ?」




「ねね、優羽って呼んでもいい?私も詩乃で
いいからさ!」




初めて女の子から名前で……!




嬉しくて泣きそうになってくる。




「う、うんっ。ありがとうっ……」




「ありがとうって何が……って、え、嘘。
泣きそうになってる!?え、待って私のせい?
どうしよう……」




勘違いをしてあたふたしている詩乃ちゃん。




ふふっ、かわいい。




「違うよ、ごめんね。私、女の子に名前で
呼ばれたことなくて、嬉しくて……っ」




「………そう、だったんだ……いや、今まで
優羽に出会ってきた子は何考えてんの?
こんなに可愛いのに」





ブツブツ1人で呟いている詩乃ちゃん。




「詩乃ちゃん、どうしたの?」




制服の袖を引っ張って言うと。




「っ………ああっ、可愛いすぎるっ!やばいもう
彼女にした〜い」




「ええ?ふふっ……」




詩乃ちゃん、明るくて可愛くて面白くて……
こんな子と仲良くなれて、私、幸せ者だなぁ。




「笑い方まで可愛いっ。はあ〜もう天使!
……って、あ!私、優羽に聞きたいこと
あるんだった!」




聞きたいこと?




「なあに?」




「優羽ってさ、生徒会長と付き合ってるの?」




私にしか聞こえないくらいの小さな声で聞いてきた詩乃ちゃん。




ツキアウ、つきあう、付き合う………って、
ええ!?




「ななな無いよ!」




付き合ってないけど同居してます、とは言えるわけないし。




「あれ、違った?生徒会長、優羽といるときだけ何か雰囲気違うから彼女かと思ってたんだけど。今日も一緒に登校してきたでしょ?」





私といる時だけ、雰囲気が違う?………あ、
それ裏の聖那さんだからでは?




でも聖那さんだって裏の顔知られたくない
だろうし、黙っておくことにした。




「そ、そうかな?一緒に登校してきたのは、
えっと、ほら!迷いそうになってた私を
案内してくれただけで……生徒会長さん
優しいし、あはは……」




誤魔化せたかな?




どうやら、詩乃ちゃんは私の説明に納得した
ようだった。




「そうだよね〜、でもなんかあの人、いつも
ニコニコしてるじゃん?だから余計裏があり
そうなんだよね〜」




詩乃ちゃん、鋭いっ……。




「そ、そうかな?」




「う〜ん……ま、この話はもういっか!改めて
これからよろしくね、優羽!」




「う、うんっ。こちらこそ、よろしくね!そ、
それと……わ、私たちって……」




「うん?」




勇気を振り絞って。




「とっ、友達、ってことで、いいのかな……?」




友達というか、幼なじみの牙央くんしかいない私は、いつからか友達の作り方を忘れてしまっていた。




どこからが友達で、どこまでが友達じゃない
のかも。




詩乃ちゃんは最初きょとん、としていたけど、
すぐニッコリ笑って。




「優羽ったら、友達に決まってるでしょ!
蒼穹学園での私の友達第1号だよっ」




「!っ私、蒼穹学園に来て、詩乃ちゃんと友達になれてよかったっ!」




友達ができるって、こんなに嬉しい事
だったんだ。




「も〜優羽可愛いっ」




「わっ」




そう言って詩乃ちゃんが私に抱きついてきた時。




「……あ、牙央くん」




「優羽……おはよ」




「お、おはよう」




ちょっと、機嫌悪い……?




詩乃ちゃんはあまりいい空気では私たちを
交互に見ている。




「手、どう、まだ痛む?」




「大丈夫って、言っただろ?」




牙央くん、私、嘘ってわかってるんだよ?




「あ、そう、だよね……ごめんね」




「っ、あっ、いや………」




「…………」




2人が黙り、辺りには気まずい空気が広がる。




すると、詩乃ちゃんが私をまた抱きしめて
言った。




「何、コイツ?私の可愛い優羽に素っ気ない
態度取って!」




えっ、詩乃ちゃん怒ってる!?




「詩乃ちゃん、違うんだよ?これには事情が……」




「優羽、誰?」




今度は牙央くんが聞いてくる。




2人の間にはバチバチと火花が飛んでいる。




詩乃ちゃんの紹介をしようとしたら、
詩乃ちゃん自らどどん!と立って。




「1年Aクラス5番、園北詩乃、15歳!誕生日は
8月9日、趣味は運動と好きな人眺めること!
好きな食べ物はピザとマシュマロ、
嫌いな食べ物はパセリ、パクチー、セロリ!
そんで優羽の大親友!!どう、まだ分からない?」




ものすごく早口で1回も噛まずに言った
詩乃ちゃん。




「い、いや………」




牙央くんがそのあまりの勢いにたじろぐ。




「優羽、この人誰なの〜?」




「あっ、えっとね、この人は私の幼なじみの
弓波牙央くん。出席番号は2番だよ」




「私より上……可愛くないやつ。あっ、優羽は
例外だよ!?」




「はっ、別に可愛く思われたくなんかねぇよ」




「うわ、可愛くない」




「だから……!」




言い合ってるけど、なんだかんだ相性いい
かも、この2人。




そう思いながら席に座る。




そこで私はあることを思い出した。




「ねぇ詩乃ちゃん、趣味が好きな人を眺める
ことって、好きな人いるの?」




恋バナにも少し憧れがあったから、思い切って
聞いてみた。




それにあまり聞かない趣味だし気になって
しまった。




「ふふっ、気になる?私、生徒会の書記の……って、あれ、2人ともどした?」




生徒会。




その単語に反応してしまった。




牙央くんの顔色を窺っていると、牙央くんが私の前に立ち少し目線を低くして、口を開いた。




「優羽……





俺、優羽が好きだ。ずっと前から、優羽のこと
しか見えてない」




「え?うん、私も牙央くんのこと好きだよ?」




「あれ、優羽まさか、天然……」




詩乃ちゃんも聖那さんと同じようなことを
言っている。




「ちょっとお前黙ってろ」




「はい、すみません」




牙央くんが詩乃ちゃんに悪い言葉を放ったと思ったら。




「………っ」




私の唇は、牙央くんの唇と重なっていた。




1年Aクラスが静まり返った瞬間だった。




「ばーか、俺が言ってんのはこの好きだよ」




生徒会長の次は、幼なじみからキスされ
ました。



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