パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「これも俺だよ」

「……っ」

鋭い視線が刺さる。

そんな瞳、彗くんはしないって思ってた。

「紫衣が知らねぇだけだろ」

「…。」

彗くんは私のことを紫衣なんて呼ばない。

紫衣ちゃんって呼んでくれる、紫衣ちゃんって呼んでくれるところが好きだったのに。


もう呼んではくれないの?


「…じゃあ今までのは嘘だったの?」

「は?」

「だって本当はプリンなんか好きじゃないんでしょ?」

すぐ大きな声を出しちゃうけど、素直で明るい彗くんに憧れてた。

「私に笑ってくれたのも、私に優しくしてくれたのも…本当は嫌々だったの?」

「別にそんなことは言ってねぇだろ」

やばい、泣きそうになる。

全部、全部、私の好きな彗くんじゃないんだって思ったら。

「だってそうでしょ!めんどくさいってそーゆうことなんでしょ!?」

「だからそうは言ってねぇよ」

「そうだよ!」

そーゆうことだよ…っ

彗くんと一緒にいるのが楽しくて嬉しくてしあわせだったのに、そう思ってたのは私だけなんだ。


そう思ってくれてた彗くんはいないんだ。


「私のこと…、好きなのも嘘なの?」

私だけの気持ちだったんだ。

「だからそうじゃねぇって言ってんだろ、わかんねぇー奴だな」

「わかんなっ」

どこまでも気だるそうに、脱力感をあらわにして息を吐く。

わかんないのは私の方だよ。
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