パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
確か食べ歩きのできるコロッケ屋さんが駅の近くにできたんだ、そこへ行ってみたくてケイを誘った。

「なんかねぇ珍しい伯爵(はくしゃく)イモを使ったコロッケなんだって」

男爵(だんしゃく)イモだろ、ジャガイモの位なんかそんな高くねぇよ」

「違うよほんとに伯爵(はくしゃく)なの!あるんだって伯爵(はくしゃく)イモって!」

「ねぇよ」

スマホで検索して画面を見せた。昨日から調べたんだ、自信満々にぐっとケイの前に出した。

「……マジだ」

「ね、あるでしょ!」

さすがに私だってジャガイモの品種ぐらい知ってるもん、男爵(だんしゃく)イモとメークインぐらい聞いたことあるもん。

「あとねぇ調べたんだけど伯爵(はくしゃく)のが男爵(だんしゃく)より2つ位が高くて」

「それは知らなかったのかよ」

「その間に“こしゃく”があるんだって」

「”子爵(ししゃく)”な」

「え?」

隣を見た、目を合わせたケイがゆっくり口を動かした。

「し、しゃ、く」

くすっと微笑んで。

「そこまでちゃんと調べて来いよ」

彗くんの笑い方とは違う笑い方で笑うからなんだかくすぐったい。

彗くんなのにやっぱり彗くんじゃない、ケイなんだ。

「でも子爵(ししゃく)イモはないんだよ!」

「へぇー」

手を繋ぐわけでもなくて腕を絡ませるわけでもない。

ただ隣を歩いて、たまに笑って。

寒いのに暖かいケイとの空間が増えていった。
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