パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「…帰ったんじゃねぇーのかよ」

「……。」

何も言わず床に潰れたプリンを手ですくっていた。

「用はもう済んだろ、早く帰れよ」

「なんで何も言い返さなかったの?」

「………。」

べちゃっとひしゃげてしまったプリンを手ですくってカップの中に戻していた。
手ですくったところで、手の中でぐちゃぐちゃになるだけなのに。

「言い返せたでしょ、私に言ったみたいに言いなよ!なんで言い返さないの!?」

しゃがみ込んでいる前に立っていたけど全く顔を上げようとはしなかった。

ちっとも私の顔を見ようとはしなかった。

「言い返したところでなんだよ」

「なんでっ、こないだは言い返したじゃん!」

「あの時と状況が違ぇんだよ」

「状況って…っ」

私の方がムキになっちゃってつい声が大きくなる、それなのに全く声色を変えずそれどころか揺れることのない落ち着いた声が返って来た。

「ここで悪いのは俺だ」

「…っ」

私にはあんな言い方したくせに、なんでそんなに全部を受け入れてるみたいな言い方するの…

全然わからないんだけど!


でも、そんな声…


らしくない声してた。

「…タオルとかティッシュとかないの?手じゃ無理だよ、ただベタベタになるだけだよ」

「……。」

しゃがみ込んで転がった未開封のプリンとスプーンを拾った。裏返ったおぼんを元に戻して上に乗せて、ポシェットからハンカチを取り出した。

「はい」

「…なんだよ」

「手、拭いた方がいいよ」

「……。」

「ハンカチじゃベタベタなのは変わらないけどね」

同じようにしゃがんだから視線が同じになって顔が見られた。

つり上がってばっかの眉も睨みつけるような目つきもない表情は彗くんかと思った。
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