パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「あのね彗くん…っ」

きゅっと握った裾を引っ張った、ていうか力が入って引っ張っちゃった。

「もし、もしね…嫌なこととか、悲しいことがあったら何でも言ってねっ」

グッと目に力を入れてもう1度顔を上げる。

「私彗くんのこと世界で1番大事だから!」

大それた告白みたい、これじゃあさっきと変わらないね。

でも真剣だったの。

真剣に考えて、私にできることはこれしか思い付かなかったの。

「紫衣ちゃん…」

甚平の裾を掴む私の手にそっと触れて握った。

「ありがとう。でも何もないよ、だって紫衣ちゃんといられてしあわせだから」

彗くんの手はあったかい、私の方が安心してしまう手をしてる。

「オレも紫衣ちゃんのこと好きだよ!」

私の不安を追い払うような顔で笑うから。


“彗は俺のことも知らないから”

本当に何も知らないんだね。

何の記憶にも残ってないんだね。


これ以上は聞いちゃいけないよ…ね?


“にーちゃん頭いいしカッコいいしすげぇから!”

きっと彗くんにとっては自慢のお兄ちゃんだもん。
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