ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
その後、当てもなく町の中を彷徨う。
覚悟はしていたけど、まさかここまでどうしようもない状況に追い込まれてしまうなんて。
破門された見習いたちが、全員その道を諦めたというのも深く納得できてしまう。
ギルドでアトリエの紹介もしてもらえない。直談判なんてもっての外。
他の町での活動も現実的ではなく、錬成師として生きていくのはもう諦めるしかないのだろうか。
「うっ……ぐっ……」
我知らず涙が滲んできて、私は思わず手で顔を覆いながら俯く。
町の通りを行き交う人たちに悟られないように、静かに涙声を漏らす。
たった一度、失敗してしまっただけだというのに。
あの劣悪な労働環境のせいで、私の錬成師人生はボロボロに崩されてしまった。
私の三年間は、いったいなんだったんだ。
その時――
涙を隠すために俯いていたせいで、前から歩いて来る人に気付かなかった。
ドンッ! と激しくぶつかってしまう。
「あっ、すみません!」
「いえ、こっちこそ」
年若い青年とぶつかってしまったみたいで、私は咄嗟に後ろを向いた。
泣いていることを悟られないように顔を隠してみたのだが、どうやら青年には気付かれてしまったらしい。
しかも彼は、それを心配して私に声を掛けてきた。
「だ、大丈夫ですか? もしかして今ので怪我とか……」
「あっ、いえ、そういうわけじゃなくて……!」
青年が申し訳なさそうな声を漏らしているので、私はすぐに誤解を解くべく振り返ろうとする。
そして青年と目が合うと、なぜか彼はハッと息を呑んで瞳を見開いた。
その後、じっとこちらを見つめながら固まってしまう。
私の顔に何か付いているのだろうか?
見つめられる覚えがなく、滲んだ瞳で青年に視線を返していると、やがて彼の口から驚くべき台詞が漏れてきた。
「も、もしかして…………ショコラなのか?」
「えっ?」
突然名前を呼ばれて、私はドクッと心臓を跳ねさせる。
直後、朧げだった視界がじわっと晴れていき、目の前に中性的な顔立ちの銀髪の青年が映し出された。
中肉中背の十七、八ほどに見える青年。くっきりとした碧眼に長いまつ毛が特徴的な目元。
パッと見た印象では見覚えのない青年だったが、数秒見つめたのちに電気のような衝撃が脳裏を迸る。
……面影がある。
およそ八年前に、故郷のポム村を出て行って、それ以来会っていない“幼馴染”の面影が。
「クリム、なの……?」
私の辿々しい問いかけに、目の前の銀髪の青年――クリム・シュクレは、気まずそうな顔をして目を逸らした。