キケンな夜、追われる少女は、ヒミツの甘園へ迷いこむ
「未夢ー? もう終わったんでしょ、戻って来なよー」
「ッ! あ……、うん。すぐ行くねッ」
スマホを持つ腕を私が降ろしたのを見た麻琴ちゃん。
電話が終わったって分かったみたい。
小走りで戻り、おずおずと頭を下げた。
「ごめん、家の用事で帰らないといけなくなって」
「またー? 総季のお嬢様は忙しいですなぁ~」
麻琴ちゃんは、爪を研いでふぅと息を吹きかけるマネをした。
いつも怒らず許してくれる彼女の優しさに、もう何度も救われている。
「麻琴ちゃんの話、明日きく! 絶対に聞く! 甘い物食べながら、ゆっくり話そ?」
「はいよ、じゃあお店のリサーチ任せた。美味しいのを期待してる!」
「うんッ」
麻琴ちゃんと別れた後は、走って屋敷へ急ぐ。
自分の家を「屋敷」と呼ぶのは変だけど、あまりの大きさに「家」と呼ぶのも違和感があって……。
「って、そうじゃない。今は一秒でも早く、お兄さまのところへ行かなくちゃ」