風が吹いたら
あなたの撮る写真は、芸術写真や報道写真とは対極にあるものだったのでしょう。
どこまでも実用的で、目の前にある家族の姿はただの作業の結果。
でも、二十年後、大きくなったこの子たちが、この写真を見ながら幼き日の思い出を語るかもしれない。
六十年後、この子たちの子どもがこの写真を通して、お祖父さまやお祖母さまに会うのかもしれません。

「それは、魔法よりすてきだわ」

見上げると、あなたと目が合いました。
狭く暗い部屋の中、近い距離で向けられる視線には手触りさえありました。

わたしを見つめるあなたは笑っていませんでした。
電球の色が映って、瞳は黄昏の色をしています。 その深い瞳をまっすぐわたしに向けて、少しかすれた声で言いました。

「でも、手の中に閉じ込めておきたいものを残せるわけではありません」

ああ、そうですね。
本当にそうです。
捕まえておきたいものほど形には残せない。

わたしは空っぽの手のひらをそっと握りました。


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