Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜

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 土曜日の午前。午後からの遅番の仕事だった春香は、あの日以来、久しぶりに博之の家族が経営をしているというカフェにやってきた。

 店に着くなり、以前と同じように店員に声をかけてカウンター席に案内してもらうと、仲睦まじく会話をしている椿と博之を見つける。

 しかしそこへ向かう前に、最初に瑠維が座っていた席が気になってしまう。今は空席だが、春香の頭にはあの日の瑠維の後ろ姿が蘇ってきた。

「あっ、春香ちゃん!」

 椿の声がして、春香はハッと我に返る。そして手を挙げながら椿の隣に座った。

「二人とも、今日は時間を作ってくれてありがとう。デートとかじゃなかった?」

 春香は二人に向かって頭を下げる。話したいことがあるからと、二人に時間を作ってもらったのだ。

「ううん、大丈夫。どうなったのかずっと気になっていたから、逆に呼んでもらえて良かったよ」
「そうそう。二人とも全然報告してくれないからさ」

 博之が言う"二人"とは、春香と瑠維を指していることはすぐに理解出来た。

「あはは、ごめんなさい。とりあえずあの男は捕まったから今は安心してる。二人には本当に感謝してるーーその、瑠維くんと再会させてくれてありがとう」
「ということは?」

 興味津々な様子で二人がニヤニヤ笑っているので、春香は頬を赤く染めて俯きがちに口を開く。

「うん、付き合うことになりました」

 それを聞いた椿と博之はテーブルに突っ伏して身悶えている。それを見た春香も恥ずかしくて顔を両手で覆った。

「あの男が家に侵入したって聞いた時は、本当に怖くて、すごく心配したんだよ。でもそれを助けてくれたのが君島くんで、彼の部屋にいるって聞いたから、どういう感情でいたらいいのかわからなかったんだから」

 顔を上げた椿は眉間に皺を寄せながらも、安堵の表情を浮かべていた。町村に追われ始めてからずっと相談に乗ってくれていたのは椿だったのだから、それは当たり前のことかもしれない。

「椿ちゃん、今まで本当にいろいろありがとう。椿ちゃんがいなかったら、きっと一人で抱え込んで、最悪な展開になっていたかもしれない。感謝してもしきれないよ」
「春香ちゃん……うんうん、本当に良かった……」

 二人は手を取り合い、抱きしめ合う。その様子を見ながら、博之は二人の前に淹れたばかりの温かいお茶と、抹茶プリンを使ったプリンアラモードを置いた。

「うわぁ、美味しそう!」
「これは俺からのお祝い」
「食べていいの?」
「どうぞ」
「ありがとう!」

 一口含んだ春香と椿は顔を見合わせると、あまりの美味しさに思わず手を合わせた。
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