Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「あぁ、瑠維くんにも食べさせたかったなぁ」
「そっか。甘党って言ってたもんね」
「うん、スイーツのお店は私より知ってるかも」
「そういえば瑠維は? 一緒に来るかと思ってたのに」

 他愛もない話をしていると、博之が不思議そうに口を挟む。

「今日は次の書籍の校正作業? の締め切りなんだって。私のことでいろいろあったし、ちょっと作業が遅れてるみたい」
「なるほど。でもストーカーが捕まって良かったよ。瑠維を護衛につけて正解だったな」
「うん、本当に瑠維くんがいてくれて良かった。今こうして普通の生活が送れているのは彼のおかげだからーーただまだちゃんと解決したわけじゃなくて、もしかしたら示談になる可能性もあるから……」

 "示談"という言葉を聞いた博之の顔色が変わる。この瞬間を待っていた春香は、一度スプーンを置いて博之の顔を見上げた。

「やっぱりヒロくんは、瑠維くんの事件を知っているんだね?」

 博之は驚いたように目を見開くと、困ったように頭を掻きながら下を向く。

「瑠維から聞いた?」

 春香は首を横に振った。

「鮎川さんっていう、瑠維くんの担当の方から聞いたの。その……瑠維くんはきっと自分から話さないだろうからって」
「あぁ、鮎川さんは初夏に並々ならぬ思い入れがあるみたいだったからなぁ。二人が再会すべきだと熱く語ってたよ。そのたびに瑠維に『有り得ません』って何度も言われてた」

 博之はそう言いながらクスクス笑うと、納得したように頷いた。

「そうか。初夏のモデルが佐倉だって知って、瑠維の全てを受け止めて欲しいって思ったのかもな」
「うん、そう言ってた。でも今は私自身がそう思ってる。瑠維くんは話してくれないかもしれないけど、だからといって知らないままではいたくなくてーー。今日もね、瑠維くんのことが聞きたくて、最初から一人で来るつもりでいたんだ」

 春香の真剣な表情を見て、博之は観念したように息を吐く。

「……わかったよ。どこまで聞いたの?」
「大体のことは聞いたの……瑠維くんがどれほど苦しんだのか、私には想像しか出来ないんだけど……ただ瑠維くんがどうやって立ち直ったのか、誰が手を差し伸べたのかを知りたくてーー」

 その時、春香と博之の空気感を察知した椿は席を立ち、
「私、向こうにいるね」
と言うと、お茶とプリンアラモードのお皿を手に持って、カウンターの一番端の席に移動する。

「ありがとう、椿ちゃん」
「ううん、気にしないで」

 あの席は瑠維が座っていた場所。きっと話は聞こえてしまうだろう。でも椿はそれを吹聴したりする人間でないことはわかっていた。

 春香と椿はお互いに頷き合うと、博之の方に向き直った。
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