Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 いつも使っている駅を通り過ぎて少し歩くと、マンションが立ち並ぶエリアが現れる。

 その中の一つに瑠維は春香を連れて入っていく。オートロック、明るくて真新しいエントランスにはソファとローテーブルが二セット置かれていた。

 自分が住んでいるマンションとの差に、春香はつい挙動不審になる。

「わぁ……すごいマンションだね。うちとは大違い」
「たまたま希望通りの物件があったんで」
「希望って?」
「二十四時間使えるジムとプールです。ちょっと運動不足になりがちで」

 驚いて目を見開いた春香の様子をどこか楽しげに眺めていた瑠維は、エレベーターを呼び出して地下駐車場に降りていく。

 そして停めてあった白のSUVの助手席のドアを開け、春香を中へ促す。春香は戸惑いながらも中に乗り込んだ。

 エンジンがかかり、ナビが起動する。

「ナビに入れますか? 住所自体を知られたくなければ先輩が案内してくれてもかまいませんが」
「えっ、車の道順なんて無理だよ! ナビに案内してもらってもいい?」
「じゃあ住所を入力してもらえますか?」

 春香は頷くと、ナビに住所を打ち込んでいく。ルートが示されると、瑠維は車を発進させた。

 いつもは電車で帰る道を車に乗って帰るなんて贅沢すぎる。実のところ、車には嫌な思い出があり、少しトラウマになっていたのだ。

 その瞬間、大事なことを思い出した春香はパッと瑠維の方を向く。

「あの、瑠維くんは彼女はいるの?」
「いたら春香さんを乗せたりしません」
「そ、そうだよね。それなら良かった……」

 春香はホッとした様子で肩の力が抜けた。彼女がいないのなら、助手席にただの先輩である春香が乗っても、怪しむ人はいないだろう。

「……何故僕に彼女がいないか聞くんですか?」

 ミラー越しに見られている感じがし、困ったように苦笑いになった。

「実は昔ね、付き合っていた人の車に初めて乗ったら、いろいろなところに女性の痕跡が残っていて。シートに長い茶髪、ダッシュボードに口紅、扉側の飲み物ホルダーにつけ爪。明らかに女性が乗っていた感じがするでしょ?」
「そうですね」
「元カノのだって言うから、とりあえずその場は納得したんだけど、帰りに彼の家の前で女性が待っていて修羅場と化したことがあってね、それ以降助手席に座ると思い出しちゃうんだよねえ」

 あの時のことは一生忘れないほどの嫌な体験だった。春香はため息をつくと、大きく項垂れた。
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