Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「……それは二股だったということですか?」
「ううん、よくありがちなやつ。私の方が浮気だったの。その彼は、同棲中の彼女が友達と旅行に行くっていう日に私を連れ込もうとしたみたい。でも彼女さんはずっと彼の行動を怪しんでたんだよね。GPSがしっかり証拠になったって言ってた」
「なるほど。だからその女性はわざと自分の品を置いて、嘘をついて見張っていたんですね」
「そうなの。詳しく聞いたら、他にも何人かいたみたい。私の方は付き合い始めだったし、すぐに別れちゃったからいいんだけど。でももう修羅場とかはいらないかなぁって。ちゃんとした穏やかな恋愛ならしたいけど、今は仕事の方が楽しくなってきちゃったしなぁ」

 あの修羅場以降、男性との出会いに臆病になったのは確かで、恋愛にも積極的になれなくなった。

「今は付き合ってる人はいないんですか?」
「いないから椿ちゃんが瑠維くんにお願いしたんだよ」
「じゃあ今は先輩のボディガード兼、仮の彼氏みたいなものですね」
「うっ、変な役職つけちゃてごめんね」

 春香が謝ると、瑠維は前方を向いたまま首を横に振る。

「先輩、何度も言いますが、僕は自分の意思で引き受けたんですよ。先輩が安心出来るまで続けますから」
「うん、ありがとう。瑠維くんってめちゃくちゃいい人だし……思っていたのと違っておしゃべりだったんだね」
「おしゃべり……ですか?」

 瑠維は驚いたように硬直する。

「高校の時は、必要最低限の会話しか聞いたことがなかったから、すごく無口な人だと思ってたの。だからこんなにお話出来て、楽しかったなって」
「いえ……」
「今まで知らなくてごめんね。あの、ちゃんとお礼もするから、私が出来ることって言ったら限られちゃうけど、何か考えておいてね」
「……わかりました。先輩にしか出来ないことを考えておきます」

 話をしているうちに、春香のマンション前に到着する。もう少し話していたいような物足りなさを感じながら、瑠維の方に向き直る。

「今日はありがとう」
「部屋の前まで送ります」
「ううん、そこまでは大丈夫。本当にありがとう」
「……わかりました。次は明日でいいですか?」
「あっ、明日は休みだから、明後日なんだけど……」
「では今日と同じ場所で待ってますね」

 瑠維は頷くだけで、相変わらず無表情のまま、何を考えているのかはわからない。ただ春香にとっては、変わらない彼の態度にホッとした。

「じゃあ、おやすみなさい」

 車のドアを開けて外に出る。頭を下げた瑠維に手を振り、車が見えなくなるまで手を振った。
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