Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜

3

 久しぶりに寝覚めの良い朝を迎えられた。きっと昨夜楽しい気持ちのまま眠りにつくことが出来たからに違いない。

 朝食を済ませ、洗濯物を干して、部屋の掃除をする。何も予定のない日曜日は、自分のためだけに時間を使える。のんびりとした気持ちで過ごしていた。

 お昼も近くなり冷蔵庫を開けると、思った以上に何もないことに肩を落とす。おかげで午後にやることが決まった。

 買い物に行って、とりあえず数日分の食料の調達と、日用品の買い出しに行こう。

 その時突然テーブルの上のスマホが鳴る。画面に椿の名前を見つけると、意気揚々と電話に出た。

「椿ちゃん? どうしたの?」
『あっ、急にごめんね! 昨日どうだったかなって気になって』

 春香はそのまま床に座り込んだ。椿の言う昨日とは、瑠維とあの男性客のどちらのことだろう。少し迷ったが、順を追って話すことにする。

「椿ちゃんがちゃんと伝えてくれたおかげで、従業員出口で待っててくれたよ」
『ちゃんとわかったんだ。良かったぁ。で、その後は?』
「近くのうどん屋さんで食べて、その後にコンビニのソフトクリームを食べて」

 話しているうちに自然と笑顔になる。自分で思っている以上にきっと楽しかったのだろう。

『二軒はしごしたんだね。まぁうどん屋さんじゃスイーツはないかー』
「そうそう。でね、その後に車で家まで送ってくれたんだよ」
『えーっ、車?』

 椿はスマホに耳を当てていられないほどの驚きの反応を示し、春香は一瞬スマホを耳から離した。

『それはびっくりだね。ちゃんと家まで送ってくれた?』
「もちろん。しかも瑠維くん、職場のすぐそばのめちゃくちゃいいマンションに住んでた! 彼って一体何してる人なんだろう?」

 あんな高級マンションに一人で暮らしているくらいだ。彼がどんな仕事をしているのか気になった。

『……春香ちゃん、今さらっと"瑠維くん"って呼んだね』

 春香の疑問とは別の問題を指摘され、苦笑いをしてしまった。

「だってそう呼んでほしいって言うから。でも……本当にすごくいい人だったよ。高校の時の記憶がほとんどないのが残念なくらい」
『まぁ私もだけど、春香ちゃんたちのグループとは住む世界が違っていた感じがするもんね』
「同じようなことを瑠維くんも言ってた。私もあの頃は変に粋がってた気がするから、言いたいことはわかる気がする。でも……後悔先に立たずとは、こういうことを言うんだろうなぁ……もっと視野を広げておくべきだったよ」

 高校生の春香は博之を中心に世界が回っていた。だからそれ以外のことはどうでもいいとすら思っていた節がある。

 あの頃の彼はどんなふうに過ごしていたのだろう。博之というレンズ越しにしか見覚えがない瑠維の別の姿を想像しようとするが、そうすると今の彼の姿になってしまうのだ。
< 25 / 151 >

この作品をシェア

pagetop