Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
『今あの人とたまたま家の近くで会ったの。偶然だと思うんだけど』

 彼に心配をかけないよう、なるべく明るい文面を心がけたのだが、送信した瞬間にすぐにメッセージが届く。

『今どこですか。その男は近くにいるんですか?』

 春香は出入り口の方を見たが、店の扉は閉じたままで誰もいない。恐る恐る窓の外を覗いてみたが、それらしき人は見当たらず、ホッと胸を撫で下ろす。

『今はいないみたい。友達の家に行く途中だって嘘をついて、慌てて駅前のファミレスに入ったから信じたのかも』
『でもまだ隠れているかもしれません。僕が家まで送ります』

 思いがけない展開になり、先程まで感じていた不安感が一瞬にして払拭された。

 本当のことを言えば、このまま家に帰ることには抵抗があった。もし家がバレたらどうしようーーまさかもうバレてる? どちらにしても、今は家に帰るべきではないような気がしていた。

 それに春香は瑠維に迷惑をかけるつもりはなく、買った食材は処分して、どこか近くのホテルに泊まればいいと思い始めていた。

『ちょっと話を聞いて欲しかっただけだから大丈夫。もう少ししたら帰るから』

 すると今度は着信音が鳴り響く。何も確認せずに電話口に出た春香だったが、なんとなくだがそれが瑠維であるような気がした。

「もしもし」
『僕です』

 直感が当たり、思わず苦笑いをした。

「うん、そうかなって思ってた」
『……あ、あの……これは僕の身勝手です。でも……心配なんです。まだその男が近くにいるような気がしてならないんです』

 きっと先程の話を誰が聞いてもそう思うだろう。春香自身もその考えを捨てきれないのだから.

『だから……嘘を実行しませんか?』

 春香は目をぱちぱちと瞬いた。

「嘘って、友達の家に行くってこと?」
『そうです。しばらくどこか別の場所にーーもし先輩が嫌でなければ、例えば僕の家に避難して、夕方くらいに先輩の家に帰るのはどうでしょう』

 それはありがたい申し出だった。嘘ではないことが実証出来る上に、この場から去ることも出来る。

 否定する理由が見つからない春香は、申し訳ないと思いながらも、
「……いいの?」
という言葉が口から出てしまった。

『もちろんです。すぐに迎えに行きます』

 瑠維は勢いよくそう言うと、すぐに電話を切った。春香は安心したからか、ソファに体の全てを預けて息を吐いた。
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