Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「そろそろ使っていたアイシャドウがなくなりそうで、それなら佐倉さんに聞こうかなって」
「本当? じゃあ新作のパレットをオススメしてもいい?」
「うわぁ、是非お願いします!」

 真白をカウンターに案内し、そこに置かれていたアイシャドウを見せながら話しをしていると、春香は時折不思議な気分になった。

 それはどこか懐かしくて、穏やかな気持ちになるーーまるで仲良くなり始めた頃の椿と話しているような気持ちになるのだ。

 鏡の前に座った真白の瞼にアイシャドウをのせていくと、椿を可愛いくイメチェンさせようと意気込んでいた頃の自分を思い出す。

 本当に再会した頃の椿ちゃんによく似てる……おしゃれについて興味はあるけど、やり方がわからない。そんな彼女を少しずつ変えようと、春香の部屋で二人ではしゃいでいたあの日が懐かしく感じる。

 今では春香がいなくても、椿は自分らしいスタイルを確立していた。それにこれからは、きっと彼氏である博之のためにキレイになろうと努力するに違いない。

 だからというわけではないが、こうして変わろうとする誰かの背中を押したり、手助け出来ることが春香の喜びになっていた。

「この色、すごく自然でいいですね」

 春香が施した色味が気に入ったのか、真白は鏡を見ながら嬉しそうに微笑んだ。

「やっぱり佐倉さんに相談して良かった! これにします」
「気に入ったのが見つかって私も嬉しいな。是非使ってね」
「はい、ありがとうございます!」

 会計を済ませ、アイシャドウの入った袋を真白に手渡す。

「使うのが楽しみです。また来ますね!」
「うん、またお待ちしてます」

 何度も振り返って手を振る真白の背中を見送り、店に戻ろうとした時だった。

「佐倉さん」

 再び背後から声をかけられる。しかしその声を聞いた春香は、息をするのも忘れ、恐怖のあまり体が凍りついた。
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