Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「とにかく瑠維くんに迷惑をかけないように、今日は一人で帰る」
『えっ、で、でも瑠維くんは……』
「ううん、もう決めたから。大丈夫。椿ちゃんも仕事に戻って。じゃあね」

 そう言って一方的に電話を切った。

 春香は大きなため息をついてから、頭を掻きむしる。そろそろ今後のことをちゃんと考えないといけないのかもしれない。

 仕事のこと、住まいのことーー椿ちゃんの言う通り、何かが起きてからでは遅いのだから……。

 その時、ロッカールームのドアが開く音がして、春香は体をビクッと震わせる。

「佐倉さん、いる?」

 ロッカーの陰から顔を覗かせたのは店長だった。春香は慌てて立ち上がると、頭を下げた。

「店長! あの、先ほどはありがとうございました……」
「ううん、そんなことはいいんだけど……やっぱりまた佐倉さんに会いにきたのよね」
「たぶん……。あ、あの、ご迷惑をおかけしてすみません」
「別に佐倉さんに迷惑はかけられてないわよ。ただちょっと今後のことを考えると、一度警察に相談した方がいいと思う」

 椿と同じことを言われ、春香もようやく決心がつく。

「明日は休みなので、警察に行って相談してみます」
「うん、それがいいと思う。この後どうする? 不安なら帰ってもいいし」
「いえ、まだ外にいたら怖いですし……あの、少しだけ退勤時間を早めてもいいですか?」
「そうね。少しずらすのはいいかもしれない」
「ありがとうございます。じゃあ休憩が終わったらお店に戻ります」
「わかったわ。くれぐれも無理はしないようにね」

 店長がロッカールームを出ていく音を聞き、春香はロッカーに寄りかかりながらずるずると床に座り込んだ。

 それからスマホを開き、瑠維に送るメッセージを打ち込んでいく。

 彼に不審がられないよう、自然な文章を打とうーーそれなのに、どんな文章にしても見抜かれてしまいそうな気分になった。

『今日は職場のみんなと飲みに行くことになったので、お迎えは大丈夫です。せっかく食材を買ってもらったのにごめんなさい』

 それからハッとして、新しくメッセージを打つ。

『あの男、瑠維くんのことに気付いているみたいなの。だから瑠維くんもくれぐれも気をつけて。私のせいで迷惑かけて、本当に申し訳ないです。いつかちゃんと謝罪させてください』

 これで瑠維がここに来ることはない。スマホをカバンにしまい、大丈夫と自分に言い聞かせた。

 家に帰ったら、しばらく暮らせるだけの荷物を準備して家を出よう。今日はどこか泊まれる場所を探して、明日の朝一番で警察に行く。それから新しい住まいを探そう。

 残念だけど、職場も異動出来るか聞かないとーー無理なら転職も考えなければならない。

 頭ではわかっている。なのにこの理不尽な状況が悔しくて涙が溢れてきた。

 私が何をした? ただ一生懸命働いていただけ。それがどうしてこうなっちゃったんだろう。

 目の前の平穏だった生活が、音をたてて崩れていくのが見えた。
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