Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜

5

 なんて長い一日だろう。疲れがどっと出た春香は、瑠維の車の中で一言も発することがないまま、窓に寄りかかってぼんやりと空を眺めていた。

 車が駐車場に止まり、彼が春香のキャリーバッグを引いてくれているのを見ても、
「ありがとう」
の一言しか出てこなかった。

 瑠維の家に着くなり、昼食以降何も口にしていないことを思い出す。こんな状況でもお腹が空くことに苦笑いをした。

 でもこんな時間に食べるわけにもいかず、春香は我慢しようとした時、
「春香さん、お腹空きませんか?」
と瑠維が声をかけてきた。

「な、なんで私がお腹空いてるって知ってるの?」
「知ってるというか、僕自身がそうなので」

 瑠維は春香をカウンターの席に座らせると、自分はキッチンの中に入っていく。

「少しだけ待っててください」

 そう言うと、コンロに置かれていた鍋に水を入れて火にかけ、冷蔵庫から豆腐と玉子、冷凍庫からカットされたネギを取り出した。

 手際よく鍋に放り込み、鶏ガラと塩と胡椒で味付け、最後に玉子を投入する。手際良く調理する姿に感心し、鼻を掠める香りに食欲をそそられてうっとりした。

「こんな時間に炭水化物を摂るのは罪悪感がありますからね。でも空腹じゃ寝ることも出来ませんから」

 瑠維はカウンターにスープの入った器を二つ並べた。春香はそれを自分の前と、隣の席に置く。その途端、春香のお腹が悲鳴を上げたため、二人は顔を見合わせて笑った。

「食べていい?」
「もちろん」

 温かなスープを口に含むと、体中に染み渡っていく。体も心も温まり、緊張で強張っていた体の力が抜けていく。

「瑠維くんって、私の欲しいものがお見通しみたい」
「……そうなんですか?」
「そうなの。こんなに甘やかされて、痒いところに手が届くような至れり尽くせりな生活をしていたら、どんどんダメ人間になっちゃいそう」
「……でも、そうやって意思疎通が出来る相手って貴重じゃないですか?」
「うっ、確かにそれも言えてる」
「それに僕、そんなポジティブなことを言われたのは初めてです」
「ポジティブ?」
「えぇ、大抵は"目の上のたんこぶ"って言われてきましたから」
「あはは! そんなこと、初めて聞いたんだけど」

 すると瑠維はどこか満足そうな顔になると、スープを食べ始めた。

 あぁ、そうか。今もずっと私が暗い気持ちにならないように気を遣ってくれているんだーーそう思うだけで胸が熱くなった。
< 50 / 151 >

この作品をシェア

pagetop