Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「何度も言いますが、もっと頼ってください。僕はあなたに頼られたいんです」

 頼るあてのない春香にとって、こんなに勇気付けられるものはない。

「本音を言えば僕は怒っているんです。勝手に一人で行動をして、危険を自分から引き寄せたんです。あの男にチャンスを与えてしまったようなものですから」
「それは……!」
「僕を危険に晒したくなかったんですよね? 近藤先輩から伺いました。だから……その気持ちが嬉しかったから、もうその怒りは忘れることにしたんです」

 瑠維は躊躇いながらも、そっと春香の手に自分の手を重ねた。

「それにこう言ったら春香さんを不快にさせてしまうかもしれないけど、今だって僕の部屋のキッチンとリビングで過ごしているわけですし、使う場所が少し増えて、滞在時間が長くなるだけで、たいして変わりはしません」
「……そうなの……?」
「そうなんです」
「でも今までは遊びに行ってるみたいな感覚だったけど、付き合ってもいない大人の男女が泊まりって……」
「僕のこと、信用出来ませんか?」
「そ、そういうことじゃなくて……」
「じゃあいいじゃないですか。それ以上言い訳をこねるのなら、強引にでも連れて行きますよ」

 瑠維は春香の脇の下に手を差し入れ、わざと持ち上げるフリをする。くすぐったさと恥ずかしさで顔を真っ赤にした春香は、瑠維の手から逃れようと体をくねらせる。

「わ、わかった! でも邪魔になったらいつでも追い出していいからね」
「そんなことあり得ないので安心してください。さっ、必要な荷物をまとめてしまいましょう。旅行用のカバンかキャリーバッグはありますか?」

 春香は頷くと、立ち上がってクローゼットを開け、中からキャリーバッグを引っ張り出した。

「手伝いましょうか?」
「ううん、大丈夫。あっ、でももしよければ、冷蔵庫の野菜とかは持って行きたいんだけど……腐ると大変なことになっちゃうし」

 なるべく早く新しい部屋を探すつもりだったが、日数がわからないからこそ、野菜をそのままにして家を空けたくはなかった。

「わかりました。僕は冷蔵庫の野菜を袋に詰めますので、春香さんは必要なものをまとめてください」
「うん、ありがとう」

 こんなに危機的な状況の中にいるのに、彼のおかげでそれを感じずにいられるのは不思議だった。

 痒いところに手が届くように、瑠維くんが手を差し伸べてくれるからだわ……彼にはどうやってお礼をしたらいいのだろう。考えても思いつかなかった。

 とはいえ、今は荷物をまとめることに集中しないと、時間は刻々と過ぎていく。今度直接聞くと決め、春香は洋服、下着、化粧品などをキャリーバッグに詰めていった。
< 49 / 151 >

この作品をシェア

pagetop