Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜

8

 春香は自分の部屋の真ん中に立っていた。窓の外は暗く、なぜか部屋の明かりも消えている。

 嫌な予感しかしなかった。

 その時部屋の扉を何度も叩く音がして、春香は恐怖に震え始める。いつまでもドアを叩く音は止まず、立ちすくむ春香の方を誰かが掴んだのだ。

 恐る恐る振り返ろうとした春香の耳元で、
『捕まえた』
という町村の声がし、春香は悲鳴をあげて目を覚ました。

 気付けばスマホのアラームがなっており、冷や汗を拭いながら呼吸を整える。

 やはりそんな簡単に記憶は消えてはくれない。ただ隣で眠る瑠維の姿を確認しただけで、気持ちが落ち着くのを感じた。

 珍しく瑠維はまだ眠ったままだった。彼の顔を見ると愛しい気持ちが溢れそうになって、起こさないようにそっとキスをした。

 この一ヶ月くらいは怒涛の早さで過ぎていった。町村のことで悩んで、その人がストーカーになって、春香の家に侵入した上で現行犯逮捕された。

 しかし何よりも大きな変化は瑠維とのことだった。ただの高校時代の先輩後輩だったのに、ストーカーから守ってくれて、お互いに好きだってことがわかってーーついには体の関係まで結んでしまった。

 昨夜のことを思い返すだけで頬が熱くなり、体の奥がキュンとする。想い合う人とのセックスはやはり気持ちが違っていた。痛いかもという不安は(よぎ)るのに、それよりも繋がりたい欲が勝ってしまう。

 今すぐ起きてくれないかな……身支度をするギリギリの時間までイチャイチャしたいなんて言ったら嫌がられるかしら。

 これから仕事なのにーー煩悩を追い出すように
頭を大きく横に振る。自分がこんなに性欲が強いなんて思っていなかった。むしろしなくたって生きていけるとすら思っていたから。

 静かに寝室を出るとすぐに洗面所に向かい、それから浴室に入ってシャワーを浴びる。

 体に残る瑠維の跡が消えてしまうような切なさを感じながらも、今日やるべきことを考えてその感覚を打ち消していく。

 まずは店長に一昨日の夜のことを説明しよう。それにあの男が逮捕されたからと言っても、同じ場所に留まり続けることにはやはり恐怖があるから、異動願を出すことを伝えよう。

 シャワーを止め、浴室から出て着替えをしていると、リビングの方からいい香りが漂ってきた。

 起こしてしまったかもしれない罪悪感を感じながら、瑠維が起きてご飯を作ってくれていると思う嬉しさ。そして一番正直なお腹は悲鳴をあげた。

 よく考えてみれば夕食を食べ忘れたのに、運動だけはたくさんしてしまったわけだから、お腹が空くのは当然かもしれない。

 身支度を整えた春香がリビングに入っていくと、昨日とは打って変わり、お盆に並べられた和定食がカウンターに置かれていた。
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