Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「あの……瑠維くんはストーカーに関する本を書いたことがあるんでしょうか」

 その言葉を聞いた鮎川は、興味深そうに春香へ視線を投げかけた。そのため、メイクをしていた手を止めた。

「……何故そう思われたんですか?」
「その……ストーカーに関する法律に詳しかったり、私にかける言葉が的確というか……だから安心出来たというのもあるのですがーー今はミステリーを中心に書いているって言っていましたよね。もしかしてそういう取材をしたことがあるのかなって……」

 彼がそばにいてくれたおかげで、不安に怯えることはなかった。もし一人でいたら、今も自分の部屋で塞ぎ込んでいたかもしれない。

 温かく包み込まれ、普段の自分でいられるのは瑠維がいてくれたからに他ならない。

「先生にはそのことを尋ねましたか?」
「いえ、私の中でもはっきりとそう思ったわけではないので……」
「まぁ聞いたところで先生は何も話さないかもしれませんね。つかぬことをお尋ねしますが、お二人はお付き合いを始めたんですよね?」
「は、はい」
「まだ別れる予定はないですよね?」

 真顔でそう口にした鮎川に対して、春香は泣きそうな顔を両手で押さえると、体中から血の気が引いていくのを感じた。

「……そ、それは私が飽きられるということですか⁈」
「あぁ、そういう意味ではないです。まぁそんなふうに捉えてくださったのなら安心しました。どうぞメイクも続けてください」

 不安げに首を傾げた春香だったが、鮎川に促されるまま再びメイクの続きを始める。

「"初夏"のモデルになった佐倉さんだからこそ、お伝えしておきたいことがあるんです。これは作品にはなっていないし、(おおやけ)にもなっていない内容なので、口外はしないでください」

 これがとても重要な話であることは、鮎川の口ぶりから察することが出来た。

 瑠維くんにまつわる話ーー春香は緊張した面持ちで、深く頷く。その様子を確認した鮎川も頷くと、ゆっくりと囁くような声で話し始めた。
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