Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「たぶん私たち『Love is blind』の読者は、初夏に対してどうして伶の気持ちに気付かないの! とヤキモキしていたんです。そしてみんな初夏と伶の再会を夢見ていたーーだから絶対に二人には幸せになって欲しいって思ってしまうんですよね」

 初夏が自分だとは思わずに読んでいた時、確かに春香もヤキモキしながら伶を応援していた。しかし初夏が自分だと知った今、なんて鈍感なのだろうと恥ずかしくなる。

「先生は優しい人ですから、たぶんあなたを心配させたくなくて、これからも秘密にしようとするでしょう。でも私たち読者は、初夏には伶の辛さを共有してほしいと思ってしまうんです。それが二人の絆を深める道である気がするから」

 それは十分伝わった。彼の思いは、そんな簡単に紡がれたものではなくて、様々な経験を経て、より深く大きくなったものだと知ることが出来たから。

 メイクを終え、鮎川の前に鏡を置きながら、春香は瑠維に会いたい衝動に駆られる。今すぐ彼を抱きしめたいーーそれくらい彼の想いが身に沁みたし、同じだけの想いを今すぐ返したいと思ったのだ。

「あっ、でも先生にはこのことは秘密でお願いします。佐倉さんが知ってくださるだけで構わないので」
「わかりました」
「あと、このアイシャドウください。すごく気に入りました」
「本当ですか? ありがとうございます! でもあちらのお店のは……」
「いちいち新しいお店のものを選ぶのが面倒だっただけです。良いものに出会えたのなら、そこで買わなければ損ですから」

 なんてはっきりした性格の人だろう。感情の起伏が少ないところは、なんとなく瑠維くんに似ているかもしれない。ストレートに話してくれるのは、言われる側も気持ちがいい。

 そして何より、最後に鮎川が自社のアイシャドウを気に入ってくれたことが嬉しかった。

 会計を済ませてから、袋詰めした商品を鮎川に手渡す。

「いろいろとお話してくださり、ありがとうございました」
「いえ……。実は昨夜のパーティー、先生はずっと帰りたがっていまして」
「そうなんですか?」
「はい。あんな姿を見たのは初めてで、先生の本気度をひしひしと感じたんですよ。あんなに他人に興味を示さなかった人が……いやもう感心しました。何があったんだと皆興味津々でしたよ」

 そう言いながら笑いを堪えているのを見ると、きっと今までとかなり違う姿が見られたに違いない。

「先生のこと、めいっぱい愛してあげてください」

 きっと彼は皆に愛されているのだろう。彼女の言葉からしっかりと伝わってくる。

「……はい、もちろんです」

 私を愛し守ってくれた彼を、同じように愛し守りたいーー春香は大きく頷いた。
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