Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜

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 鮎川を見送ってから再び店が忙しくなり、バタバタと時間が過ぎていった。それでもふとした時に彼女から聞いた瑠維のことを思い出しては、思いを馳せてしまう。

 大学二年生の瑠維を知らない春香は、ただ想像することしか出来ないことがもどかしかった。

 私は瑠維くんがいてくれたから、すぐに気持ちを切り替えられた。でもその時に瑠維くんを守ったのは誰なんだろう。そしてどうやって立ち直ったのだろう。

 春香の場合は客という間接的な人物によるものだったが、瑠維の場合は大学のサークルの先輩。学校に行けば顔を合わせることになるし、相当なストレスを抱えていたのではないかと思う。

 そしてその人物に家に監禁されただなんてーーたった一日、あの男が家に侵入しただけでも恐怖心が消えないのに、瑠維はどんな気持ちでいたのだろう。

 きっと学校でも噂になったはずだし、彼が抱えた苦痛はどれほどのものだったのかーー鮎川の話は要点をまとめたもので、彼の細かな心情まではわからなかった。だとしても一応口止めをされたし、直接聞くことは無理だった。

 そうなるとやはり想像することしか出来ず、真実はわからない。

 どうしてあの頃に彼と繋がっていなかったんだろう……とはいえヒロくんにフラれてから、彼に関する繋がりはなくなっていた。だからどうしようもないのはわかっている。

 今頃になってそう思うのは、瑠維を好きになったからに他ならない。あの頃に再会していたとして、彼と付き合ったかはわからなかった。

 そんなモヤモヤを抱えたまま終業時間を迎えた。仕事を終えて外へ出た春香は、瑠維の姿を見つけるなり胸が熱くなり思わず抱きつく。

 瑠維は驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに微笑むと、春香をすっぽり包み込むように抱きしめた。

「春香さん、どうかしましたか?」

 瑠維の匂いを胸いっぱいに吸い込み、彼への気持ちを再確認する。

「うん、やっと瑠維くんに会えたのが嬉しくて。来てくれてありがとう」

 瑠維の顔を見上げてみたが、片手で顔を押さえながら上を向いていたため、彼の表情までは見えなかった。

 それが瑠維の照れ隠しの仕草だとわかった春香は、くすぐったくなるほど胸がときめいてしまうのだった。
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