甘美な果実
4
 世間を騒がせている、一家殺害事件の新たな犠牲者が出た。同じ高校に通う、まだ一年生である男子生徒の家族だった。ケーキだったのは、その男子生徒のよう。他の事件と同じように、男子生徒の身体に喰われた痕が残っていたらしい。同一人物の犯行とされている。

 今朝から校内は騒々しかった。一家を丸ごと殺害し、その回数も複数に及んでいるシリアルキラーに、学校の生徒が殺されたのだ。その餌食となったのだ。教師は保護者や警察の対応に追われ、教室にいるよう指示された生徒も多数動揺している。冷静でいられるはずもなかった。

 他学年、いや、他クラスにすら、これといって仲の良い人のいない交友関係の狭い俺も、ショックのようなものを覚えていた。同時に、家族を皆殺しにしてまでケーキを喰う猟奇殺人鬼と、篠塚の血肉を本気で食べようとしてしまった自分が、同じ部類のフォークであることを再度突きつけられ、それに関しても、胸の奥の方で騒ぐものがあった。

 犯人はケーキを喰っている。罪を犯してまで喰っている。そこに罪悪感があろうがなかろうが、喰っているのだ。何度も繰り返すほどにそれは美味く、深く満たされるものに違いない。少しだけの唾液でもそうだったのだから。あれ以上の味がするのなら、俺も喰ってみたかった。喰いたくて、仕方がなかった。残り物でいいから喰いたかった。どうせなら、犯人がいつも喰い残しているケーキを、俺にも分けてくれればいいのに。既に死んで喰われているのだから、俺が喰ったところで何も変わらない。量が減るだけだ。

 そこまで考えて、はっと気づいて、思わず舌を打ちそうになった。それを、咳払いで誤魔化す。まただ。また、この思考になる。いくら考えを改めようとしても、悪魔みたいな自分が、思考を乗っ取りに来る。
< 80 / 147 >

この作品をシェア

pagetop