極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む
 黙り込んだ私に、院長がじれったそうに続ける。
「君にはここを辞めてもらいたい。当面の生活費は援助する。拓海のことは諦めるんだな。どうせ金目当てだろう」
「……っお金目当てだなんて……」
 どうしてこんなひどい言い方をされなければならないんだろう。私たちはただ純粋に惹かれあって……。……違う。私が彼のことを好きでも、彼は『いい母親になりそうだから』というメリットのために私を結婚相手に選んだに過ぎない。私たちは気持ちが通じ合っているわけじゃないのだ。
 熱くなっていた頭が冷えていき、心が虚しくなる。『いい母親』が望みなら、適任は私以外にだっていくらでもいるだろう。私である必要はない。
「……わかりました。ここを辞めます。生活費はいりません。多少の貯金はありますので」
 お金を受け取らないのは、私なりのプライドだ。院長はうんうんと小さく二度うなづいたあと、テーブルに紙を差し出した。病院の様式の退職届だ。
「今日付けで書いてくれ」
 息を呑んだ。
拓海さんと会えないまま、ここを去ることになってしまうなんて。ううん。会えなくたっていい。私は愛されていたわけじゃないんだから。
「承知しました」
 私には、他に選択肢などなかった。

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