極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む
*拓海side*


 始まりは、名前だった。
 心臓血管外科にもそれに関わる他科にも、医療スタッフは大勢いる。
 看護師は特に異動が多いため、名前を覚えていないスタッフも正直なところ多い。
 そんな中、GCUで初めて彼女のネームプレートを見たとき、パッとイメージが浮かんだのだ。
 小鳥が遊ぶ、菜の花。
 かわいらしい名前だとすぐに印象に残った。
 そして、その名に違わず春の花のような屈託のない笑顔を咲かせる女性だとも。
 GCUの看護師が一日に担当するベビーは三~四人ほど。
 助っ人でほかのベビーに入ることもある。
 医療スタッフだって人間なのだから仕方のないことだが、事務的に黙々とベビーの世話をしたり、流れ作業になることだってある。
 そんな中彼女は、ベビーひとりひとりと丁寧に向き合い、愛しげに話しかけてあやしたりしている。
 そのため、事務作業が遅いと師長から怒られたことがあると他の看護師が言ったが、俺にとってはそんな彼女のエピソードもとても微笑ましかった。
 いつの間にか、俺は新生児科に行くたびに彼女のことを探すようになっていた。
 彼女の母性というものに惹かれたのだろうか。
 恋愛らしい恋愛なんてしたことのない俺が、完全に彼女にはまってしまったのだ。
 けれど、所属科も職種も違うのだから飲み会などで一緒になることもないし、なかなか接点を持ちずらい。
 どうしようかと思案していたところで、あの日男に連れていかれそうになる彼女を見つけたのだ。
 車で送ることになったとき、突然だったためどんな話題を出そうかと悩んでいる間に、彼女は眠ってしまった。
 進展を期待した俺は少々がっかりしたが、神は俺を見放してはいなかった。
 プロポーズしたのは思いつきでも気まぐれでもない。
 いつかそうしたいと思っていたことが、予定外に早く訪れたというだけの話だ。
 過去につらい経験をしたようだが、そんなのは俺が塗り替えてやる。
 彼女を絶対に幸せにしようと心に決めた。
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