極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む
「菜乃花!」
 病院を出て少ししたところで、手を掴まれた。
「話を聞いてくれ」
 振り返らない私に、康太くんが言う。
 話なんて、こちらには何もないのに。彼は手を離して私の前に回り込み、大きく頭を下げた。
「ごめん」
 また揶揄われると思っていた私は、頭に疑問符が浮かんだ。どうして謝られるのかわからない。
「転校したの、俺のせいだったんだろ?」
 閉口した。それは間違っていない。彼がいなければ、転校せずに通い続けられたはずだ。
 黙っていると、彼はさらに深く頭を下げた。
「傷つけるつもりなんてなかったんだ。菜乃花が怖がってたから、ちょっと冗談を言って笑わせてやれたらと思っただけなんだ」
「冗談……?」
 確かにあのとき怖かったのは事実だ。けれど、それが康太くんに伝わっていて、気遣いのつもりであんなことを言っていたなんて考えもしなかった。
「ずっと謝りたかった。ごめん」
 頭を下げる康太くんが、とても痛々しく見えた。彼も私と同じように、傷を抱えて生きてきたんだろうか。だとしたら、お互い様だ。
「……顔、あげて?」
 康太くんはゆっくりと顔をあげたけれど、その顔は曇っている。
 彼をこれ以上苛まないように、明るく微笑んでみせた。
「もういいよ。昔のことだもん」
「昔のことだって割り切れてないから、逃げたんじゃないのか?」
 康太くんが鋭く突っ込んできて、私は慌てて言葉を探す。
「驚いちゃっただけだよ。だって突然現れるんだもん」
「突然現れるって、お化けじゃないんだから」
 大袈裟におどけたら、康太くんが控えめに笑ってくれてホッとした。
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