白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

理論では分かる。
付き合い始めたばかりなのに、不安に怯えるのではなく、一緒に過ごす時間を楽しむことが大事なことくらい。

「頭では分かってるんですけど…」
「嫌がる夕映を無理やり抱いたりしないよ」
「……本当ですか?」
「俺、強姦魔か何かと勘違いしてないか?」
「っ……」
「そりゃあ、好きな女が目の前にいるんだから、全く手を出さないとは言わないけど」
「っっ」
「けど、夕映には嫌われたくないから、今日のところは我慢してやる」
「っっっ」

百戦錬磨の相手に、私がどうこうできるとは思えないけれど。
今はスローペースでこの関係を築いていきたい。

「ん。……これくらいはいいだろ」

自分の腕をトントンと叩き、『ここに来い』とジェスチャーする彼。

既に少しずつ空が白んで来たということもあるかもしれない。
仕事のために、今は少しでも睡眠をとっておかなければと脳が指令を出しているから。
彼の腕にその脳を乗せるだけだ。

腕枕だと思うのではなく、脳の休息を取るための行動だ。
夕映は自分自身に言い聞かせ、彼の腕の中で眠りに就く。

「おやすみ」
「……おやすみなさい」

こんなに心地いい寝入りはいつぶりだろう。
いつも電池が切れるが如く寝落ちるか、うつらうつら浅い眠りを繰り返すしかなかったのに。

疲れが溜まっているからだ。
嫌なことが数珠つなぎのようにあったからだ。

きっと、そうだ。
そうに違いない。



彼の体温と鼓動が、こんなにも安心できるだなんて。
この心地よさを覚えてしまったら、二度と手放せなくなりそうだ。

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