白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
「それが人にものを頼む態度か?」

「黒瀬、大丈夫か?なんか、顔色悪いぞ?」
「ちょっとストレス過多気味なだけなので、ご心配なく」
「例の御曹司と喧嘩でもしたのか?」
「…へ?」
「そりゃあ、お前、見てりゃあ分かるよ。出勤日でも無いのに医局にいるわ、急患がいるわけでもないのに仮眠室に連泊してりゃあ」
「っ…」

数日前、神坂医師に言われた一言が頭の中をぐるぐるとエンドレスで回っていて。
正直、自分に何が起こったのかすら理解するのに丸二日かかった。

彼はあの後、『返事は急がないから』と爽やかな笑顔で私の手を握りしめた。
そして帰り際に、会心の一撃とばかりに超特大の爆弾を投下して行ったのだ。

『いい歳した大人の男が下心全くなく、自分の家を明け渡すと思うか?』

不敵に微笑みながら去る彼の後ろ姿と、ガチャッとドアが閉まる瞬間が今も脳裏にリフレインしている。
医局にある自分のデスクに突っ伏した夕映は、盛大な溜息を洩らした。

「黒瀬先生いますか~?」
「あ、はい、います!」
「外線三番にお母様からお電話です」
「母から?」
「はい」

医局に駆け込んで来たナースに言われ、外線の電話を取る。

「はい、もしもし」
「もしもし、夕映?」
「ん、何?職場にまで電話してくるなんて」

不規則な勤務状態を熟知しているから、電話なんて普段はかけて来ない両親。
用がある時はメールで連絡してくるのに。

「夕映、あんた今どこに住んでんの?荷物を送ったら宛先不明で送り返されて来たんだけど」
「……あ」
「当然家の電話にかけても繋がらないし、携帯にかけても留守電になるし」
「……ごめん、ちょっと忙しくて」
「じゃあ、今どこに住んでんの?」

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