白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


「何年も付き合ってる恋人だと勘違いしてるんですよ?」
「ん」
「……それに、この家に一緒に住んでると思ってます」
「それで?」
「だから、……けっ、結婚を前提にここで同棲してると完全に思い込んでるんですっ」
「だろうね」
「ッ?!……いいんですか?否定しなくて…」
「……否定して欲しいの?」
「へ?」
「俺が否定したら、俺らの関係を鋭く突いて来るよ?知り合いの医師といっても、こんな物件、普通貸し借りしないでしょ」
「っ……」

ド田舎暮らしの年老いた両親とはいえ、さすがに常識的に考えても納得する理由にはならないよね。
彼の言う通りだ。

声のトーンを落としたやり取り。
カウンター越しにリビングの両親を見据え、苦肉の策を口にする。

「じゃあ、……とりあえず、両親の前では彼氏ということで…」
「それが人にものを頼む態度か?」
「へ?………んっ」

突然手首が掴まれた。
そして、スッと間を詰めた彼が耳元に呟く。

「俺に何のメリットが?」
「っ……」

初めて感じる鋭い眼差し。
声音も、手首を掴む力強さも。
いつもの彼とは全くの別人だ。

「俺がホイホイ何でも君の言う通りにするとでも?」
「っっ」

冗談で言っているようには聞こえない。
だとすると、これが本音?

先日の『いい歳した大人の男が下心全くなく~』発言も驚いたが、初めて聞く彼の口調に驚かされる。

優しく穏やかで紳士的だと思っていたのは、表面的な作られた彼なのかもしれない。

「お母さんがこっち見てるよ」
「ふぇっ……ッ?!」

彼の言葉に反応するようにリビングに視線を向けた、その時。
母親と視線が交わる中、彼は私のこめかみにそっとキスをした。

暢気にテレビを観ている父親。
私達を見て、嬉しそうに口元を手で覆う母親。
彼の行動に動揺する私。
そして―――。

「結婚前提で同棲してるカップルなら、これくらいサービスしとかないとな」

恐ろしい台詞と綺麗すぎる彼の美顔に、夕映の一瞬心臓が止まった気がした。

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