白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

数日後。
仕事終わりに別宅を訪れた采人。
室内が暗く、玄関に履物が無いことから、夕映が仕事なのだと把握する。

手土産のうな重弁当を手にしてダイニングに行くと、椅子の上に口の開いた段ボールが置かれているのに気づく。
差出人を確認すると、『黒瀬 晶子(あきこ)』とある。
夕映の母親からだ。

先日のやり取りを思い出し、箱の中を確認すると、大量の生うどんと何故か結婚情報誌が数冊。
それと、海外旅行のパンフレットまである。

結婚に奥手の娘の背中を、親心で押してやろうという事らしい。
采人にとったら願ったり叶ったり。

ご丁寧に『うどんは采人君用だからね』というメモまである。

約束事を簡単に反故にしないご両親のようだ。
相槌のようにその場凌ぎで口にする人が多い中、彼女のご両親は口約束を守る、筋の通った人らしい。

今年三十歳を迎える娘。
手に職をつけ、独り立ちしているとはいえ、医師としての階段は上り始めたばかり。
しかも、一分一秒を争う救急医療を専門職として選択した彼女は、この先も仕事が最優先になるだろう。

そんな彼女の結婚相手として『合格』を貰えたという事が、今は一番嬉しい。
彼女の将来を脅かす不安材料としてではなく、心から娘を託したいと思える存在になれるように。

神坂という財力も、医師としての地位も、清潔感のあるこの容姿も。
使えるものは何だって使う。
彼女から、俺のこの胸に飛び込んでくるように。

「へぇ~、チャペル特集か」

海が見える教会、森の中の教会、石のドームを始め、迫力のあるパイプオルガンやステンドグラスが人気の大聖堂まで。
雑誌を捲る采人の脳内では、純白のドレスを身に纏った夕映が采人に優しく微笑みかけていた。

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