白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


「先生、息子の具合は…」
「大丈夫ですよ、お母さん。胃内部の洗浄を施し、血液にも異常が診られませんし、心電図も異常ありません」
「はぁ……ありがとうございます」
「お母さん、少しお話宜しいでしょうか?」
「……はい」

救急搬送された二十代の男性は無事に胃洗浄が行われ、現在バイタルも安定している。

ER室の一角にある相談室。
手術や転院の説明などに使われる個室だ。
その部屋に夕映は搬送に付き添っている母親を通した。

「失礼ですが、息子さんは今回のようなことを何度か繰り返してますよね?」
「……はい」
「当院で、今回が三回目。当院以外に、以前にもあったのでは…?」

前回同様今回も安定剤(睡眠導入剤)を大量に摂取したことによる意識不明で搬送されている。
俗にいう自殺未遂というやつだ。
けれど、夕映には自殺をしようとしたとは思えないのだ。
これまでも、意識混濁のような状態はあるにせよ、致死量には達していない。

たまたまなのかは分からないが、夕映が夜勤担当の日に彼は運ばれて来ている。
それも今回で三回目。
一度目も二度目も致死量ではなく、意図的に摂取量を調整していると思えるのだ。

こういった場合、精神的に何らかの問題を抱えている場合が多い。
誰かに見てて貰いたい、自分を認めて貰いたい、必要とされたいなどの意識が症状を引き起こす。

「三年前に婚約が破談になってから引き起こすようになりました」

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