白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

昨夜彼から聞いた話によると、まだ完全に示談が成立したわけじゃないという。
だから、解決したとは言えない。
示談が成立するまで、通勤の間だけでも指輪を着けていた方がいいのかもしれない。
……不本意だ、本当に。

女性なら大抵の人が誰しも憧れるエンゲージリング。
愛する人から贈られた『愛の証』を身に着ける場所が、突然奪われた気分。
大事にとっておいた場所なのに。

プロポーズ的なことを言われ、両親にも紹介した仲とはいえ、本当の恋人ではないのに。
何故だろう。
心から憎めないのは。

何度となく危機を救って貰ったヒーローだから?
誰が見ても完璧な王子様だから?
医師としても知名度のある人だから?
寝起きの頭では処理しきれそうにない。

「止め、止めっ、考えるだけ無駄だ」

ベッドから出た夕映はシャワーを浴びに浴室へと向かった。



シャワーを浴び終えた夕映は、母親からメールが送られて来ていることに気づく。

『素敵な指輪ね♪大事にするのよ』

開いた口が塞がらない。

母親に確認を取るまでもない。
彼が母親に写メでも送ったのだろう。
指のサイズを聞いたと言っていたから、報告も兼ねて入れたのだと分かる。

夕映は母親にではなく、采人にメールを送る。

『昨夜は寝落ちてしまい、申し訳ありませんでした。部屋まで運んで頂き、ありがとうございます。また借りが増えました』

言い訳をしてもキリがない。
借りを一つ返す前に、幾つも借りができてしまうだなんて。
ブブブッ。

『おはよう。可愛い寝顔だったから、運んだ分はチャラでいいよ』

< 73 / 172 >

この作品をシェア

pagetop