白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

「小学生の時にね、たまたま下校途中に交通事故の現場に居合わせて。その時に偶然通りがかった人がすぐさま駆け寄ってCPRしたの。周りにいる人たちは見てるだけで、救急車を呼ぶことさえしてなくて。私がすぐ傍のラーメン屋さんに駆け込んで救急車を呼んで貰ったのよ」
「……その人、助かったんですか?」
「どうかな。……結構な出血量だったし」
「先輩、よくトラウマにならなかったですね。小学生の時なら、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になってもおかしくないのに」
「知ってるでしょ、うちの実家、田舎にあるの」
「あぁ、有名なうどん屋さん!」
「山の中にあるから、観光客の人の事故が結構あるんだよね。なのに、大きな病院は近くに無くて。事故があると、救急車のサイレンがずっと響くの。山に反響して。だから小さい頃から、事故が無くなればいいなぁって思ってて。看護師に憧れてたんだけど、間近でCPRしてるのを見たら、医者になりたくなったの」
「天命……みたいなものですね」
「そんな大げさなものじゃないんだけど、『運』は絶対あると信じてる」
「……へ?」
「その救命してくれた医師ね、戸部先生のお父様なのよ」
「えっ?!」
「家族旅行で群馬にいらしてて、記憶にはないんだけど、その時に戸部先生もその場にいたらしいの、お母様と一緒に」
「……すごっ」
「でしょ?その時に貰った、先生のお父様の名刺、額に入れて今も大事にしてるよ」
「小学生が名刺貰うとか、先輩、ただもんじゃないですねっ」
「だって、後光が差してるみたいにキラキラ輝いて見えたんだもん」

今でも昨日のことのように覚えている。
私が救急医を目指したきっかけだから。

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