利害一致の契約婚だったはずなのに、激しい愛が注がれるようになりました。
「え? い、いや、それはちょっと……」
「やっぱり嘘なのね?」
「違っ!」
「嘘じゃないなら連れてらっしゃい。忙しくて来られないのなら、お母さんがそっちに行くわよ」

 今更嘘とは言えず、かといっていもしない彼氏を連れて行くとも言えず、私は嘘をついた事を心底後悔した。

「わ、分かった! か、彼の予定もあるから、すぐには無理だけど……何とか話してみるから、とにかく、こっちには来ないで!」
「そう、分かったわ。もし、やっぱり来れないとか、来る前に別れたっていう事になったら、その時点でお見合いしてもらうから、そのつもりでね」
「……わ、分かった……」

 電話を切った私は、頭を抱えていた。

 後悔先に立たずとはこういう事を言うのだろう。

 さて、どうしたものか。これはもう誰でもいいから彼氏を作るか、嘘だと白状して母の勧める人とお見合いするかの二択になってしまったではないか。

「……彼氏作るとか、無理に決まってるじゃん……。いっそ、レンタル彼氏を頼むとか? いや、これ以上嘘を重ねてもいい事無いよね……。ああ、やっぱりお母さんの言う通りお見合いするしかないの?」

 母から相手の写真は画像で送られてきていて、特に興味が無いからよく見てはいなかったけれど、相手は私より二つ年上で凄く格好良い……という訳では無いけれど、知的で優しそうな印象だった。

「……覚悟、決めるしかないのかなぁ……」

 いくら相手が私を気に入っていると言っても、会って話したらイメージと違うなんて感じるかもしれない。

 その可能性に賭けて、会うしかないのか。

「まあいいや、とりあえずギリギリまで引き延ばして、どうにもならなさそうならお見合い……するか……」

 ギリギリまで引き延ばしたところで彼氏が出来る訳が無いのだけど、もしかしたら相手の気持ちが変わるかもしれない。

 そんなほぼほぼアリもしなさそうな可能性を願いながら、すっかり冷めてしまったお弁当を黙々と食べ、ぬるくなったビールをちびちび飲んでいた。
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