利害一致の契約婚だったはずなのに、激しい愛が注がれるようになりました。
「職場の人の知り合いって、要は私に田舎に戻れって事でしょ? そんなの絶対嫌よ! 今更戻りたくないもん」

 私の実家は山の方にあって、とにかく田舎。周りは田んぼや畑ばっかりで、コンビニですら自転車で二十分ちょっとはかかる。

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ! 真剣に考えなさい、せっかく良い縁談なんだから」
「余計なお世話!」

 こうなると売り言葉に買い言葉で、いつになっても終わらないと分かっているから、

「これから予定あって準備しないとならないから切るよ? じゃあね!」
「あ、ちょっと実玖(みく)――」

 怒りが頂点に達した私はまだ何か言いたげな母に構わず電話を切ってやった。

「ったく、いつもいつもうるさいんだから」

 昔から田舎が嫌で、大人になったら絶対地元を出ると決めていた私は就職を機に地元を離れ、都会で一人暮らしを始めた。

 田舎から出て来た頃は慣れない都会の生活に苦労したりしたけど、今ではもうすっかり馴染んでいて今更田舎に戻るなんて選択肢、私の中にない。

「ふぁ~眠……。寝たの今朝なのに……電話のせいで全然寝れてないし……」

 電話を切った私は持っていたスマホをベッドの上に置き、大きな欠伸を一つ。

 予定のない休日は朝までゲームをするか、アニメを一気に観るかして大抵朝方まで起きて、それから昼過ぎあるいは夕方まで寝て過ごすのが当たり前のルーティン。

 一人暮らしは本当に自由気ままで快適で、とてもじゃないけど他人と暮らせる気もしないし、する気もない。
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